リポビタンD「時代錯誤CMで炎上」に見る栄枯盛衰 "女人禁制"からの方向転換が問題表現に?【後編】
だが、そもそもこの時期の栄養ドリンクCMは社会に与えた影響が大きく、例えば佐藤製薬「ユンケル黄帝液」の1988年のCMでは、アシカとじゃれ合うタモリの「ユンケルンバ ガンバルンバ」というフレーズが、その年の新語・流行語大賞の「特別賞・人語一体傑作賞」を受賞している。
さらに、同年の大衆賞は高田純次が出演した中外製薬(当時)の「グロンサン」のCMから生まれた「5時から男」だった。これは当時、ほとんどの企業が17時には上がれたため、「仕事が終わったから本気で遊びに行こう!」ということを意味するのだが、流行語大賞に2つも栄養ドリンクのCMのキャッチコピーが選ばれたのだ。
そんな「ユンケルンバ ガンバルンバ」と「5時から男」から、「24時間戦えますか?」に栄養ドリンクのキャッチコピーが移り変わるまで、わずか1年。バブルの絶頂期は1989年といわれているため、その間に社会は相当切羽詰まったのだろう。17時から遊んだり、ガンバルンバと言っている場合ではなくなったのだ。
時は流れて、90年代後半。バブル崩壊から時間が経過すると、栄養ドリンクのCMも「もうひと踏ん張り」という具合にトーンダウンする。
「24時間戦えますか?」といっていたリゲインの第一三共ヘルスケアは、1999年に「リゲインEB錠」のCMソングとして坂本龍一のインストゥルメンタル楽曲「energy flow」を使用。「この曲を、すべての疲れている人へ。」というキャッチコピーで、視聴者の心を落ち着かせた教授のヒーリング・ミュージックは社会現象となり、リゲインは再び栄養ドリンク(厳密にいえば錠剤)のイメージを変えたのであった。
その一方で、キックボクサーのピーター・アーツの練習風景に迫ったエスエス製薬(当時)の「エスカップ」や、相変わらず無謀なチャレンジをするリポビタンDなど男らしいCMも健在で、栄養ドリンクのCMは「リラックス」と「アガる」の2パターンに分岐するようになった。
そして、2000年代に入るとその傾向はより顕著になる。というのも、各メーカーが「女性向け」の栄養ドリンクを販売するようになり、それらのCMでは筋肉隆々の女性たちが崖を登るわけではなく、家事や育児、仕事の合間に「一息つく」ときに飲むという内容のものが多かった。
さらに「愛情一本。」のキャッチコピーでおなじみの大鵬薬品の「チオビタ・ドリンク」は、かつて北島三郎がリポビタンDのマッチョマンのようにパラグライダーやヨットに挑戦するようなCMだったが、長い時間をかけてトーンダウンしていく。
2000年代、栄養ドリンクは「みんなのもの」へ
2007年からはロックバンド・くるりの楽曲が流れるなか、菅野美穂と平山浩行が夫婦役を演じるCMが7年近く続いた。大昔は「虚弱体質にチオビタ」と言い放っていたが、このCMによって「栄養ドリンクは働く男だけのものではない」というイメージを世間に持たせたのである。
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