ここで話をややこしくしているのが、今回の法改正では、いわゆる「国際貢献」の強化も図ろうとしている点だ。
国際貢献は国際の平和と安定のため各国が協力するところに主眼があり、これは多くの国民の理解を得やすい。そこを絡めることにより、反対意見を弱めようとしているかのようだ。
言うまでもなく、国際貢献といえども、海外に自衛隊を派遣するのは「自衛」のためではない。自衛隊が海外へ出動することに関しては、日本国憲法の制約がある。そのため、これまでは国際貢献も、法的には「自衛」の枠内で認めるという形式で自衛隊の派遣を行ってきた。その結果、自衛隊員は他国の部隊に救助してもらえるが、武器を使って他国の部隊を救助することはできなかった。「自衛」の範囲を超えるからである。
それではあまりに不公平なので、今回の国際平和維持活動(PKO)法改正案はそれを可能とする新しい規定をPKO法の中に設け、いわゆる「駆け付け警護」を可能としている。
従来の時限法を恒久法としていいのか
一方、いわゆる「多国籍軍」の場合、紛争の終了を前提としているPKOと異なり、紛争は継続中なので自衛隊がそれに協力することは憲法違反になるおそれがある。テロ特措法やイラク特措法においては、自衛隊の活動する場所を「非戦闘地域」に限り、活動を後方支援、捜索救助、船舶検査などに限れば戦闘に参加することにならないと考えられてきた。「自衛」の拡大の場合と類似の考えである。
国際平和支援法案はこのような考えを踏襲しつつ、両法律のような時限立法でなく恒久法とすることをあらためて提案しているが、両特措法の時から存在していた疑問点は解消されていない。
自衛隊が支援活動を行なう「場所」については、「現に戦闘行為が行われている現場では実施しない」と明記されている。これは、支援活動を地理的に戦闘地域と切り離すための規定であるが、複雑な状況である現場においてそれははたして可能か疑問の余地がある。
イラク特措法の国会質疑において、小泉首相が「どこが戦闘地域で、どこが非戦闘地域か、日本の首相にわかる方がおかしい。自衛隊が活動している地域は非戦闘地域だ」と答えたのは、「戦闘地域」と「非戦闘地域」の境界は明確でない、明確にできないことを雄弁に語っていた。
自衛隊の取る「手段(活動内容)」の制限については、後方支援として物品や役務を多国籍軍に提供することは本来戦闘行為でないが、憲法違反にならないために十分な制限であるか異論がある。武器について言えば、自衛隊は、提供は認められていないが、輸送は認められている。このような場合に、紛争中の当事者から中立でない、敵対行為だと見られる危険が残るのではないか。
なお、多国籍軍の場合は、行動を承認する国連決議の有無についても問題がありうる。激しい紛争の場合は国連安保理決議がなかなか成立せず、また、決議があるかないかさえ争いの対象になることがあるのはイラク戦争の際に実際に起こったことであった。
多国籍軍に対しどのように臨むべきか。憲法の制限をかわすためにテロ特措法やイラク特措法で使った立法上のテクニックをただ踏襲するのでは済まない問題がある。今回の安全保障関連法案は、詰められていない論点が、あまりにも多いのである。
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