プロから見て「安保法案」は何が問題なのか 法律の中身と首相の発言にズレがある

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これまで「脅威」は我が国の領域とその周辺で発生することが「周辺事態法」で定められてきた。それに対し、改正法案(重要影響事態法)は「我が国の領域とその周辺」という限定を削除した。つまり、世界中のどこで発生するかを問わなくなる。放置すれば我が国にも影響が及んでくると考えられるものを脅威(重要影響事態)と想定しているのだ。

改正案はこの「重要影響事態」の他、いくつかの種類の脅威を想定している。なかでも議論の分かれるのが、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と説明される「存立危機事態」だ。これこそが集団的自衛権の行使が問題となる場合である。

「他国に対する武力攻撃」の場合も、自衛隊が対処する必要のある脅威としてしまえば、「自衛」を逸脱するおそれがある。そこで、「他国に対する攻撃が発生し」の後に、「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」を追加した。ここに文言の工夫をしたわけである。

存立危機事態は「ハイブリッド」

この文言は、「存立危機事態」として認める要件を厳格にしたと説明されるが、実は、こうすることにより、他国に対する武力攻撃であっても日本に対する脅威とみなし、これに対する対処は「自衛」であるという理論構成を維持できるようにしたわけだ。私は、「存立危機事態」は、他国に対する攻撃と日本に対する攻撃のハイブリッドだと思う。

さらに改正法案は、これまで自衛隊が対処することが想定されていなかったいくつかの脅威を想定している。具体的には、離島へ不法な侵入・侵害が発生し、警察力で直ちに対応できない場合、あるいは外国潜水艦による我が国領海内での航行において違法行為があった場合、あるいは在外邦人の避難の過程で外国から不法行為が加えられた場合などである。これらを、一括して「グレーゾーン事態」と呼んでいる。これらについては「自衛隊法」の改正で手当てしている。

第2に、自衛隊の行動する「場所」について。改正法案は、脅威の発生する範囲の拡大にともなって、世界のどこでも自衛隊が行動できるようにした。また、他国に対する武力攻撃であっても「存立危機事態」であれば自衛隊は「武力攻撃を排除」しなければならないと定めている。

自衛隊が行動する場所を明記しているのではないが、「武力攻撃を排除」するためには武力攻撃された国の領域へ行かなければならないのは当然だ。安倍首相はじめ政府関係者は自衛隊が他国の領域に出ていくことはないと答弁しているのだが、改正法の記載と整合性がとれていない。

第3に、自衛隊が取れる「手段」については、脅威の態様に応じてどのような手段・行動が取れるかを定めた。

「重要影響事態」の場合、自衛隊が行なうのは後方地域支援や捜索・救助など比較的軽いことである。一方の「存立危機事態」では、「攻撃を排除するために必要な武力の行使、部隊等の展開」など非常に重いことができるようになっている。「必要な武力の行使」とあるのだから、武器の使用が含まれる。つまり自衛隊は世界中のどこでも武力行使をできるようになるわけだ。

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