リトル・ピープルの時代 宇野常寛 著~大胆な構図で準拠点となる分析

リトル・ピープルの時代 宇野常寛 著~大胆な構図で準拠点となる分析

評者 橋本努 北海道大学大学院教授

現代社会を語るうえで、大きな準拠点となる本が現れた。戦後日本の文化経験を、「ビッグ・ブラザーの時代」から「リトル・ピープルの時代」へと大胆な構図でとらえ、大衆文化全体のダイナミズムを透徹したまなざしで分析する。すると個々の小説やアニメやテレビ番組がなぜ成功し、あるいはつまずいたのかが理解できるという仕掛けだ。

たとえば、「宇宙戦艦ヤマト」にせよ、「ウルトラマン」にせよ、戦後の大衆文化の多くは、「大いなる父=ビッグ・ブラザー」を前提としていた。共同体の外部から襲来する敵に対して、超越的に降臨する権力者=父が立ち向かう。いわば国民国家間の総力戦を模したシナリオになっていた。

そんな父権に抵抗したのが、1968年の学園闘争を経験した団塊の世代であった。以降の大衆文化は、大いなる父(国家あるいはシステム)からいかに距離を置くか、あるいはこれをいかに解体するかという対抗的な関心に導かれていく。

90年代後半以降のグローバル化とともに、こうした離脱と解体の物語は失効する。もはや外部は存在せず、代わって誰もが小さな父としてコミットしなければならない時代がやってきた。実際には矮小な父にならざるをえないが、それは嫌だからデタッチ(離脱)するのか、あるいは、にもかかわらず引き受けるのか。小さな権威として社会に参加することは、現実拡張の道具=ネットワークの世界を通じて、想像力豊かに担いうる、というのが本書の主張だ。

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