地方の農業振興には人口減の覚悟が必要--『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』を書いた川島博之氏(東京大学大学院農学生命科学研究科准教授)に聞く

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自給率が下がっている理由は飼料の影響が大きい。新農業基本法で選択的規模拡大を言い出し、手っ取り早く畜産の規模拡大を行った。安い飼料は海外から持ってこなければいけなくなるから、自給率は低くなる。

国民に食料を安く安定的に供給することを政策目標にするのは正しい。そのために官庁がある。だが、この食料自給率は、本来的に政策目標にできない概念だ。ところが、飢えを経験した世代に受けた。今や食料は摂取しすぎが問題で、農水省の存在意義さえ問われている。

──日本のコメの価格は米国産に比べ10倍とか。

政治がそうした。自民党は地盤だった農村の死守を図り、生産過剰状態でも何とか高値にしようとした。戦中立法の食管法(食糧管理法)を逆利用し、コメの値段をどんどん上げて、都市の住民の所得を農家に移転した。円が強くなったという事情もあって、1980年代には米国の10倍になってしまった。農民保護のために外のマーケットを閉じ、政府が関与して値段を支え、価格メカニズムが動かないようにした結果、高コスト体質にもなった。

──畜産や野菜はどうですか。

今や農業で世界に伍していこうとしたら、合理化をし、生産効率を上げて大量に作る、薄利多売しかない。これは日本でも土地の呪縛から解放された養豚や採卵鶏、葉物野菜では明瞭に進んでいる。成功している人は、もはや農民より工場経営者という言葉がぴったりくる。

裏腹に農家数は急速に減っている。たとえば採卵の経営戸数は62年には全国で280万あったが、89年に10万近くになり、2006年には3700に激減している。さらに11年度の戸数は2000程度に集約が進んでいるはずだ。同時に1戸当たりの羽数は89年に2000だったが、06年には5万近くに増えている。

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