ケニアに学びたい、一歩進んだ「性教育」 布ナプキンを男女一緒に作る意味
こうした取り組みは、学校側の積極的な姿勢もあって実現しています。校長先生のやる気がカギになっており、この校長先生(女性)は「リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)は女性だけの課題ではありません」と力を込めて話してくれました。
こういう発想は、日本と比べても進んでいるのではないか、と思います。第二次性徴が始まる小学校高学年の頃、男女別々に教室で授業を受けた日本人はたくさんいるでしょう。でも、恥ずかしいのと照れくさいのと、秘密な雰囲気がいかがわしいのとで、あまり真面目に聞かない人が多いのではないでしょうか。
ともすると「寝た子を起こさない方がいい」と、教えるべきことを教えないことになりがちな日本の性教育。日本のNPOが海外向けに行っている取り組みを、そのまま逆輸入した方がいいかもしれない、と思ったほどです。
途上国のリプロダクティブヘルスの改善で、もうひとつ重要になるのが、“地域重視”の視点です。
ケニアでは2010年の新憲法で制定された地方分権が、2013年から実施に移されています。それに先立つ2006年に、政府は「地域保健医療戦略」を打ち出しました。各地域には、10~20世帯をカバーする、コミュニティ・ヘルス・ボランティアと呼ばれる人々がいて、各家庭の健康状態を把握したり、健康管理に役立つ情報を提供したりしています。ボランティアではありますが、地域の名誉職で、約2週間の研修を受けます。
写真右側の女性は、農家を営む3児の母。「コミュニティ・ヘルス・ボランティアとして学んだことで、鶏は籠に入れて、人間の住む空間と離した方がいいことなどがわかりました」と言います。
健康や医療の情報が都市に住むエリートだけでなく、農村のお母さんに届くこと。日本では当たり前かもしれないことが、普通のケニア人の健康状態をよくするために重要なのです。
病院よりも、地域での取り組みが大事
地域医療を通じた子どもと女性の健康向上のために費やし、ケニア国家エイズ対策委員会委員長も務めたミリアム・ウェレ博士は、40年前に記した著書で「病院のような施設医療だけでなく、地域の取り組みが大事」と訴えてきました。
たとえば農村部など伝統的価値観が色濃い地域では、病院に行く習慣がないために、高リスクの妊婦が自宅出産して命を落とす例が後を絶ちません。貧困そのものも課題ですが、おカネがあっても通院の交通費を出し渋るなど社会文化的な課題が人々の健康を損なう要因になっているのです。
「自分の世代(注:ウェレ博士は1940年代生まれ)のエリートは植民地的な発想から抜け出していなかったと思います。ケニアの人々の健康問題は病院設備が乏しいだけでなく、地域のトイレが使われていないなど、公衆衛生の課題が大きかったのです。でも、そういう問題があることを、認めたくないエリートが多かった。恥ずかしいこと、と考えたのでしょう。
若い世代のリーダーは、意識が違います。コミュニティ(地域)にアプローチすれば、社会文化的な障壁を打ち破ることができます。2006年に政府がコミュニティベースの保健医療を認めたことで、さまざまな指標で改善が見られようになりました」。
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