その一方で、霞が関には、意図せざる「言葉の意味のブレ」が存在することがある。
最近、ある官庁(外務省以外の官庁である)の仕事をしていて、びっくりしたことがある。会議で書類が配られたのだが、その一連の書類には、すべて「取扱注意」のハンコが押されていた。
外務省で「取扱注意」というと、その情報が外部に漏れたところで大して困らないが、どちらかといえば漏れないほうがよい程度のものに対する秘密指定であった。要するに、取り立てて「秘密」というほどのものではない、ということである。
ところが、その官庁で配られた書類には、外部に漏れたら国内的に大問題になるのみならず、国際的にも大問題になるような内容が記されていた。要するに、絶対に外部に漏れてはならない情報ということ。外務省であれば、絶対に「極秘」のハンコが押されていたことだろう。
「取扱注意」か「極秘」か。用語の違いでは済まされない、実に危険な「言葉の意味のブレ」である。
霞が関の官庁というと、それぞれが省益に固執するため、協働体制に問題があるとされてきた。秘密指定のような、基本的な言葉の意味さえ共有できていないのだから、協働できないのも当然である。いや、この状態では、協働しないほうが、世のため人のためかもしれない。
日本教育大学院大学客員教授■1966年生まれ。早大法学部卒、外務省入省。在フィンランド大使館に8年間勤務し退官。英、仏、中国、フィンランド、スウェーデン、エストニア語に堪能。日本やフィンランドなど各国の教科書制作に携わる。近著は『不都合な相手と話す技術』(小社刊)。(写真:吉野純治)
(週刊東洋経済2011年9月10日号)
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