先進国における製造業のビジネスモデルとは?
アップルは、中国をはじめとする新興国の安い賃金を用いて製品を作り、それを所得の高い先進国で売っている。だからこそ利益が驚異的な水準に達するのだ。
アップルの成功は、新興国が工業化した後の先進国においても、製造業が高い利益率を上げうることを示した。そのために、従来とは異なる生産方式を採用しなければならなかった。つまり、先進国の製造業は、従来とは異なるビジネスモデルを採用しなければならないのだ。
しかも、アップルの製品は、コモディティ(価格以外に差別化特性がないため、激しい価格競争が生じてしまう製品)ではない。
そこで用いられている技術が新しいかどうか、元の技術を開発したのがアップルかどうかは、問題ではない。重要なのは製品のコンセプトである。アイパッドもアイフォーンも、新しいコンセプトの製品なのだ。それは、人々の生き方を変えるだけではない。大げさに言えば、ものの考え方も変えてしまう。
だからこそ、新製品の発売時に、数日前から行列ができるのである。そんな製品がほかにあるだろうか。
アップルの時価総額がアメリカ第2位になったのは、アメリカの株式市場が近視眼的であることを意味するものではない。そうではなく、市場が新しいビジネスモデルと新しい製品コンセプトを評価する能力を持っていることを示している。
日本の製造業は、賃金水準が高い日本で生産し、それを所得の低い新興国に売ろうとしている。しかも製品はコモディティだから、価格しか差別化要因がない。だから、新興国メーカーとの激しい価格競争に巻き込まれる。利益水準が低迷し、株価が上昇しないのはそのためだ。
アップルと日本企業の間には、今や絶望的なほどの隔たりが生じてしまった。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年9月10日号)
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