「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象 告発された「金融業界癒着」「中間層救済放棄」
かつてニクソン大統領を支持した人々は「サイレント・マジョリティ」すなわち「物言わぬ多数派」と呼ばれた。
ミシガン大学などで教えた社会学者の故ドナルド・ウォレン(Donald I. Warren[1935~97])は1970年代に「ものいわぬ多数派」にフィールドワークで分け入り、実態を知ろうと努めた。
その結果、彼らは妊娠中絶など社会問題では保守的立場をとる一方で、社会保障や医療保険ではリベラル(進歩的)な政策を求め、単純に左右に分類できない存在であると分かった。彼らは70年代の混迷する経済や社会の価値観に翻弄されながら、生活を守ってほしいと願う人々だった。エリートに支配された政治に自分たちの声は届かず、政治から疎外されているとも感じていた。
ウォレンは彼らが動員されれば、大きな政治変動が起きるとみて、ミドル・アメリカン・ラディカルズ(アメリカ中産階級過激派)と名付けた。頭文字をとってMARsという。ほとんど忘れ去られたウォレンのMARsの概念は、トランプ登場であらためて注目を浴びることになった。
「陰謀論」の底流にある「疎外」
エリートに支配された政治に自分たちの声は届かず、政治から疎外されているというこのMARsの絶望こそ、裏返せば実際の権力はどこか隠されたところにあるというQアノンやDSのような陰謀論を生み出す温床であろう。
実際アメリカでは、すでに1940年代、50年代から人民の意向とはかけ離れてエリートだけが政治を意のままにしているという問題提起はなされてきた。
『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』第2章で論じる戦前の代表的トロツキスト、ジェームズ・バーナム(James Burnham[1905~1987])の『経営者革命』(The Managerial Revolution[1941年])やC・W・ミルズの『パワー・エリート』(1956年)、少数の利権団体のみで政治が動かされていると論じたE・E・シャットシュナイダーの『半主権人民』による批判は、アメリカ民主主義の空洞化を鋭く突いたからこそ、大きな議論を巻き起こした。とすれば、ディープ・ステートのような陰謀論はエリート支配批判の一形態、庶民版とみることもできよう。
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