「オバマ政権の大失政」が生み出したトランプ現象 告発された「金融業界癒着」「中間層救済放棄」

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こうして中間層の崩壊が起きる一方で、AIGの事例のように税金で救済された大手金融機関の幹部らは莫大なボーナスをむさぼり、IT産業は規制のないまま稼ぎまくって、巨大な利益を得続けた。

IT産業と民主党の強い結びつきがそうした野放図を許したとみられた。オバマ時代は格差が著しく広がり、沿岸部と内陸部の分断も顕著になっていった。

2010年中間選挙で民主党が下院で63、上院で6と大量に議席を失ったのは、当然であった。白人労働者票や農村部票は前回選挙に比べ23~25ポイントも減らしている。2008年大統領選当時のオバマ熱は、2010年にはすっかり冷めた。2011年には『ニューリパブリック』記者の調査報道に基づく本で、金融業界優先のオバマ政権の体質が暴かれることになった。

2011年秋にニューヨークで起きた「オキュパイ・ウォールストリート(ウォール街を占拠せよ)」運動は、まさにこうした状況(特に格差)への激しい市民(特に若者)の怒りの噴出であった。

他方、主として共和党支持者の多い地域では、税金による大企業救済へのリバタリアン(自由至上主義)的な反発からティーパーティー運動が起きた。この運動は共和党の政治活動家らに取り込まれ、オバマ政権の縮小された景気刺激策に対しても「小さな政府」を求めて反対し、中間層としての自らの利益を損なうような倒錯した行動をとった。

これらの運動が、2016年の左右の激しいポピュリズム噴出につながっていく。

トランプが「オバマは外国生まれだ(大統領になれる資格がない)」という主張(バーサリズム)を激しく唱え出すのも2011年ごろからだ。それが市民の間に広がる素地は、中間層の崩壊を招いたオバマへの市民の怒りにあったと考えられる。

バーサリズムは元来、2008年大統領選の民主党大統領候補選びで、オバマと激しく争ったヒラリー・クリントンの支持者から始まった。それが、トランプによって復活させられ、共和党陣営に利用された。これも民主党・共和党の合作なのだということは忘れない方がいい(Ben Smith and Byron Tau “Birtherism: Where it All Begin,” Politico, Apr. 22, 2011.)。

「Qアノン」「ディープ・ステート」が映し出すもの

「オバマは外国生まれだ」というバーサリズムの前には、9・11テロはブッシュ政権が仕掛けたという陰謀論が広まる現象もあった。前者がオバマの中間層切り捨てに対する怒りの反映だとすれば、民主党支持者らが始めたとされる後者は無益な戦争に駆りだされる庶民の反発の投射だと考えていいだろう。

とすれば、こうした陰謀論につらなってトランプ支持者の間ではびこるようになったQアノン現象や、そこで議論されるディープ・ステート(DS:闇の国家、国家内国家)も、ただバカげた話だと切り捨てるのでなく、それが何を反映しているのか考えてみるべきであろう。

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