サブカルチャーは時間遡行をどう描いたのか? SF作品から「時間の流れ」について考える

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どちらの作品も、科学的な合理性はありませんが、時間の問題を人生のあり方と結びつけた名作です。

ゲーム『Steins;Gate』の歴史改変チャレンジ

近年のサブカルチャーで特徴的なのが、「何度も繰り返し過去に戻る」という設定が好まれることです。この傾向は、1980年代から流行が続いているPCゲームに起源がありそうです。

AVG(アドヴェンチャーゲーム)やRPG(ロールプレイングゲーム)と呼ばれるゲームでは、プレーヤーが主人公のキャラクターを操って、さまざまな冒険を体験します。

しかし、何の障害もなく最後まで話が進んでいくのでは、面白くありません。途中で凶悪なモンスターに襲われたり悪人の奸計にはまったりして、命を落とします。そうなると、セーブポイントまで戻って、途中からゲームを再開しなければなりません。このとき、プレーヤー自身はしくじったときの記憶を保持しているので、今度は艱難をくぐり抜けて先へ進むことができる訳です。

こうしたAVG/RPGの流れを物語に応用したのが、「繰り返し過去に戻る」というSF的設定であり、この設定を最大限に利用したのが、それ自体がAVGである『Steins;Gate』(2009)です。2011年にテレビアニメ化され、大ヒットしました。

ひょんなことからタイムマシンを発明してしまった青年が、ある悲劇的な事件を阻止するため、何度も過去に戻って歴史を変えようとするストーリーが展開されますが、これで解決かと思った瞬間に、意外な形で話が急転するのが見所です。

このゲームの特徴は、至る所に学術用語が使われ、科学的な装いをしていることです。

タイムマシンの仕組みに利用されるのが、カー・ブラックホールです。これは、自転するブラックホールであり、エネルギーを呑み込む一方ではなく取り出せる可能性があるなど、興味深い時空構造をしています。

ブラックホールの内部には、一般相対論の方程式が破綻する特異点(シンギュラリティ)が存在します。カー・ブラックホールの場合、特異点は点ではなくリング状であり、『Steins;Gate』では、そこを通り抜けるようにして、記憶情報を過去の自分に送信します(実現は難しいでしょうが)。

興味深いのは、時間遡行して過去に影響を及ぼすと、「世界線が移動する」と主張される点です。これは、過去に戻ると新たなパラレルワールドに入り込むことに相当し、ドイッチュ流の多世界解釈を想定していると思われます。

多世界解釈では、すべてのパラレルワールドが並存するとされます。しかし、それでは悲劇の起きる世界と起きない世界がともに存在するので、悲劇を回避したことにはなりません。

『Steins;Gate』では、未来から干渉が行われた時点で、一つのパラレルワールドだけが言わば“実在化する”という設定になっています。

その際に情報のパラドクス(起きない出来事の記憶がある)が生じるはずですが、実在しなくなったパラレルワールドの情報を保持する特殊能力(AVG/RPGにおけるプレーヤーの視点?)を主人公が持っているという“言い訳”をしています。

作中で頻繁に使われる「世界線」という言葉は、学術用語の誤用だと思います。

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