今も要注意「熱中症に扇風機が危険」という"衝撃" 高齢者こそ積極的に「クーラー」を使うべき理由

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もっとも信頼性の高い医療情報を提供している「コクランレビュー」によると、「扇風機の使用は、『熱波中』に健康に与える影響について、一貫した結論が出ていません。特に気温が35℃を超えると、扇風機は脱水を促進し、逆に体温を上昇させる可能性がある」と記されている。

熱波中とは、真夏に猛暑日(最高気温35度以上の日)が続くことをいう。

昨夏、東京の猛暑日は22日を数え、観測史上最多だった。東京に熱波が襲っていたことになるが、このことはほとんど社会で議論されなかった。

コクランレビューとは、医療分野の研究を体系的に評価し、エビデンスに基づく結論を提供する組織だ。そこに記載されている内容は、世界中の医師が信頼し、日常診療で参考にしている。

扇風機が熱中症リスクを高める理由

なぜ、扇風機が熱中症のリスクを高めるのか。

2016年9月、テキサス州の医師たちが、アメリカ医師会誌『JAMA』に発表した研究が興味深い。

この研究では、平均年齢68歳の高齢者9人を対象に、男性はショートパンツ、女性はショートパンツとスポーツブラの格好になって、42℃に設定された室内で座ってもらった。湿度は30%で30分、その後5分ごとに2%ずつ最高70%まで上昇させた。

これを扇風機あり・なしの場合に分けて繰り返し、深部体温や心拍数などを記録した。扇風機は16インチのものを、被験者から1メートルの距離に置いた。

結果は意外だった。扇風機を用いたほうが心拍数、深部温度ともに上昇し、その差は統計的にみても有意差があった。

このような結果になったのは、体温を超えた室内の空気を、扇風機が継続的に送り続けるからだろう。夏場にクーラーを使わなければ、室内の温度は容易に体温を超える。このような環境下で、クーラーなしで扇風機を使えば、命を危険にさらすことになる。

ただ、これは若年者では状況は異なるようだ。

2015年2月にカナダの医師たちが『JAMA』に報告した研究では、平均年齢23歳の若年者で扇風機の熱中症予防効果を検証したが、扇風機にあたったほうが深部体温は低下していた。

これは発汗能力の差による。若年者では、熱風を吹き付けられても、扇風機が体表周囲の湿った空気を吹き飛ばすことで発汗を増やし、体温を低下させるのだろう。

扇風機との付き合い方も、年齢によって、こんなに違ってくる。

猛暑の際、高齢者がエアコンを避け、扇風機に頼ることは熱中症のリスクを高めることを認識すべきだ。高齢者がエアコンを気兼ねなく使えるように電気代への配慮は必要だし、また高齢者が不快感を覚えないエアコンの開発も必要だ。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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