「会いたいという人がいるので、テレビに出ませんか」
平成のはじめ、第3子が生まれて1年ほど経った頃でした。当時、弓子さんは夫の転勤で地元を離れ、東京近郊に住んでいたのですが、あるとき玄関にテレビ番組の取材者が訪れ、血縁者が弓子さんに会いたがっている旨を告げたのです。
戸籍に書かれた血縁の父は知っている人だった
「そんな記憶は全然ないですから、帰ってください」と答えたものの、相手は「嘘ではない、戸籍をもってきている」と言って引き下がりません。「見てもらわないと帰らない」とまで言われ、やむなく戸籍を見た弓子さんは、自身が養子であることを知ったのでした。
「そうしたら(戸籍に載っていた血縁の)父親が、同じ町に住む知っている人だったんです。『なぜ?』っていう感じでしたね」
誰が番組に依頼をしたのかは、いまもはっきりしません。「ほかに考えられないので、たぶん(血縁の)父だとは思う」ものの、後に実父本人から「違う」と言われたこともあり、ほかの誰かが依頼した可能性も捨てきれずにいます。
後にわかったのですが、近所の人たちは昔から弓子さんが養子であることを知っており、また地元で恋愛結婚した夫も、結婚したときから事実を知っていたようです。
知ったときは、どんな気持ちだったのか。こんな形で事実を知らされて、腹が立ったりはしなかったのでしょうか?
「うーん、考えたかな……。それまで知らずにずっと幸せに生きてきました。それが急に、テレビが来て、思いがけないことを聞かされて。『どうして』『どうしてこうなった』ということを考えていた。恨みっていうかな、そういうふうに考えていたように思います」
血縁の父親が年を取って自分に会いたくなり、そんな依頼をしたのだろうか? 育ててくれた両親には実子もいるので、子どもができなかったわけではない、なのになぜ自分を引き取ったのだろうか? そんな疑問が、次々と湧いてきたといいます。
弓子さんはまず、育ての母親に電話をしました。「『テレビが来てこう言われました』と言ったら、『そうなんです』みたいな感じ」だったそう。父親はだいぶ前に亡くなっていたため、話を聞くことはかないませんでした。
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