なでしこは2016年、見捨てられる危険がある セルジオ越後に聞く「日本サッカーの問題点」

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――さらに上を目指すなら、日本サッカー協会のサポートが不可欠になると。

そうです。なでしこリーグには依然としてアルバイトで生計を立てている選手が多いし、なでしこジャパンのなかにもプロ選手じゃない選手がいる。それに、育成年代の女の子たちがプレーするクラブも限られています。こうした環境面の改善なくして、日本の女子サッカーの総合力は高まりません。

協会もマスコミも、なでしこに投資せよ

今大会は前回大会に比べ、出場チーム数が8チーム増え、大会の規模が拡大しました。今後、女子サッカーに力を入れる国が増えていくはずです。今回の開催であるカナダや次回の開催国であるフランスは一段と成長するでしょうし、グループステージで対戦したカメルーンをはじめ、アフリカ勢も脅威になるかもしれません。

決勝のあと、FWの大儀見優季がテレビのインタビューに「ここで何か変えないと、女子サッカーが本当の意味で進化、成長できない」と答えていて、危機感をかなり覚えていることが感じられました。これは選手からのSOSでしょう。このSOSが果たして、日本サッカー協会の幹部に届いているか。

日本サッカー協会は、男子のA代表で儲けたおカネを、なでしこジャパンやなでしこリーグに投資すべきでしょう。なでしこジャパンにこれまで以上の予算を設けたり、プロ契約していない選手を日本サッカー協会が契約してあげるなど、サポートの方法はいろいろあります。頑張って結果を残したからこそ、女子サッカーの未来のために、本腰を入れて強化に乗り出してほしいです。

――メディアの報道姿勢に関しては、いかがでしょう?

この準優勝で4年前と同じようにしばらくは「感動をありがとう」というムードになって、来年のリオデジャネイロ・オリンピックまでは、なでしこの報道は続くでしょうね。

心配なのはその後です。もし何かニュースになればフォローするけど、鮮度が落ちれば見向きもしなくなるのが、日本のスポーツ報道の傾向です。ソフトボールがいい例ですね。2008年の北京オリンピックで金メダルを獲得した彼女たちは大きく取り上げられたけど、その後、まったく目にしません。2012年、2014年の世界選手権で優勝しているにもかかわらず。

メディアも、前回大会、今大会となでしこで儲けた分、女子サッカーやなでしこの将来に投資しなければなりません。利用するだけではダメ。その競技の未来のためにしっかりと紙面やスペースを割く。厳しい内容でもいいから、報じていく、評論していくことが大事なんです。そうした投資が4年後、8年後、いつか戻ってくればいい。本来、スポーツ報道というものは、そうあるべきだと僕は思います。

飯尾 篤史 スポーツライター

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いいお あつし / Atsushi Iio

東京都出身。明治大学卒業後、サッカー専門誌の編集記者を経て2012年からフリーランスに転身、スポーツライターとして活躍中。『Number』『サッカーダイジェスト』『サッカーマガジン』などの各誌に執筆。著書に『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成に岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(ベスト新書)などがある。

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