ABCマート摘発が示す過重労働根絶の難しさ 「残業代ゼロ法案」の議論も見落とすな

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ABCマートは、靴専門店チェーンとしては国内で屈指の大手だ

過労死ライン――。脳出血や心筋梗塞などによる「過労死」を労災認定する際の基準として、厚生労働省が定めている時間外労働(残業)時間を指す言葉だ。発症前の1カ月間に約100時間、または発症前の2~6カ月前に1カ月あたり約80時間超などの過重な残業があった場合は、過労死との関連性が強く疑われることになる。

靴の専門店チェーン大手、ABCマートや同社役員、店舗責任者などが7月2日、労働基準法違反で東京労働局に書類送検された。従業員に月100時間前後という違法な長時間残業を強いたとされており、これまでの東京労働局による度重なる指導や勧告でも改善がみられなかったようだ。月100時間前後の残業は、たとえ1カ月間であっても過労死ラインに達する水準である。

「かとく」による初の書類送検

この事件は、今年4月に東京労働局に新設された「過重労働撲滅特別対策班」(通称・かとく)による初の書類送検事例だ。かとくは、政府がいわゆる“ブラック企業”対策の目玉として、東京労働局と大阪労働局にそれぞれ労働基準監督官のエキスパートを集めてつくった専門チームである。

労働基準法は102条で、「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法 に規定する司法警察官の職務を行う」と定めている。つまり、労働基準監督官は、警察官として、労働基準法違反の犯罪事実について捜査できる。必要があれば、裁判官に令状を発してもらい、家宅捜索や逮捕を行うことも可能な職業である。

その労働基準監督官が捜査の結果、刑事事件として処罰が必要と判断した場合は、検察官へ事件を送致することになる。逮捕されることなく検察官へ事件が送致されることは、一般に「書類送検」と呼ばれる。今回のABCマートをめぐる事件については、今後、検察官によって捜査が進められ、最終的な刑事処分が決められていく流れになった。

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