ABCマート摘発が示す過重労働根絶の難しさ 「残業代ゼロ法案」の議論も見落とすな

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法律の定める労働時間を超える時間労働をさせた場合、一定の割増賃金(時間外手当=残業代)を支払う義務が使用者に生じる(労働基準法37条)が、この残業代の支払いを使用者が怠ることも労働基準法違反として犯罪になる。ちなみに、使用者が、残業代を支払わなかった場合(労基法37条違反)については、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処する」(労働基準法119条1号)と規定されている。

残業代不払いをはじめとする労働基準法違反の行為は、窃盗罪や傷害罪などの一般刑法犯と同様の立派な犯罪。捜査機関による捜査が行われて最終的に刑事処分が下されることは当然のことである。

ハロワ締め出しや認定・公表などの対策は進むが…

従業員に過重な長時間労働を強いたり、そのうえで残業代を支払わなかったりするような違法行為を繰り返しているブラック企業は、相変わらず後を絶たない。政府は、こうしたブラック企業の求人をハローワークから締め出したり、ブラック企業の認定・公表制度を整えたり、などの対策に動いてきた。

これにも増して今回、政府が「かとく」を通じてABCマートの長時間残業を摘発したことは、ブラック企業やその経営者、幹部に対しては、場合によって最悪は刑事処分という重い措置を講じることも辞さないという政府の方針を象徴する。長時間労働を根絶するための手段として、労働基準法を遵守させ労働者を保護するために必要な措置であることは間違いない。

ただし、刑事処分は、刑罰という峻厳な処分を加える劇薬であるということも忘れてはならない。それに見せしめのように、いくつかの企業を摘発したところで、単なるもぐらたたきになる懸念もある。これまでも幾度となく、有名な大企業がサービス残業(賃金不払い残業)で、労働基準監督署に是正を求められてきたものの、結局は、こうしてまた新たな過重労働問題が明らかになる。大企業でさえそうなのだから、中堅・中小零細企業では、推して知るべしともいえる。

そもそも労働基準法は「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」(労働基準法1条1項)という崇高な大原則の下、1日8時間、1週40時間の労働時間を法律によって厳格に規制している。もちろん、長時間労働を放置して過労死等を生じさせた場合には、企業に安全配慮義務違反などの損害賠償請求責任が生じることはある。

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