中国人の"ニセモノ信仰"はいつまで続くか? 実はそろそろ「うんざり」な人も

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そう聞くとかなりがっくりときてしまうが、中国と日本では冒頭のニセ札問題を見てもわかるとおり、これほどまでに生活環境やニセモノに対する意識が違う。日本の常識は中国では通用しないわけだ。

消費者側、業者側の双方に問題があり、一朝一夕には撲滅できないのが中国のニセモノ問題だ。中国政府もそのことを十分承知しており、知的財産権問題がクローズアップされ始めた2000年代半ば頃から取り締まりを強化してきた。決してニセモノ問題を看過してきたわけではない。だが、市場規模があまりにも大きく、問題の根が深すぎることから、細かなニセモノにまで手が回らないのが現状だ。

制御不能のネットショップ

政府が最近、特に目を光らせているのはネットショッピングだ。中国ではネットショッピングが大流行しており、2014年のネットショッピングの売上高は約2・5兆元(約50兆円)と過去最大だった。だが、最近、最も人気のある、楽天のようなショッピングサイト「淘宝網」(タオバオワン)で扱う商品の約60%がニセモノであるとして中国工商総局が指摘したというニュースが流れた。「淘宝網」側も過去2年間、約10億元(約200億円)を投じてニセモノ撲滅に努めているとしているが、ニセモノを扱うサイトがひとつ消えても、別のサイトがすぐに雨後のタケノコのように立ちあがり、とても管理しきれない。

ショッピングサイトをよく利用している中国人に聞いてみても「以前使ったことがあって、問題のなかったサイトだけを利用している。それ以外はとても怖くて利用できない。商品が届かないこともあるし、届いたときに壊れていたこともある。もちろん明らかにニセモノだとわかることもある」と話していた。

この話を聞いていて、私は中国人の「爆買い」現象を思い出した。日本でよく話題に上るのは、日本で売られている商品の多くは「メイド・イン・チャイナ」なのに、なぜ中国人は日本にきてまで日用品まで買って帰るのか?という疑問だ。自分の国で買えばいいのに、と不思議に思う日本人も多いが、その答えはここにあった。

どんなに撲滅しようとしてもニセモノが横行する中国で、「中国で売っている中国製品は信頼できない」「本物ではないかもしれない」と不安を口にする中国人は非常に多い。たとえ、「メイド・イン・ジャパン」という表示があったり、パッケージに日本語が書いてあっても、中国のショッピングサイトで販売されているものには「大丈夫だろうか?」という疑問符がつくのだ。だから、以前よりは比較的自由に海外に出られるようになった今、中国より何十年も前に経済発展し、高品質な商品を売っている日本に大挙して押し寄せている。

中国人もニセモノが“普通に”存在する社会で生活することを「しんどい」と感じており、安心・安全な商品を求めている。そう言ってもいいだろう。

今後、日本のよい製品を目の当たりにする機会がもっと増えることによって、いつか、彼らの意識は変わるのだろうか。秋の大型連休も大勢の中国人観光客の来日が見込まれているが、「爆買い」が単なる一過性のものではなく、中国社会のニセモノ撲滅にも、間接的によい効果をもたらすものになれば、と期待したい。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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