ちなみに上記のうち②と③は連邦法、①と④は州法によるものである。仮にこの秋、トランプさんが当選して第47代大統領に就任した場合、「大統領は恩赦の権限を持つ」という憲法上の規定に基づき、「自分自身を無罪にできるか?」という問題が生じることになる。ただしその場合でも、州法に基づく①と④の訴訟には恩赦は適用できないことになる。
「1月6日事件」は最高裁の審理で遅延
あらためて4件の訴訟内容を振り返ると、①「口止め料事件」はあまり筋のいい裁判とは言いがたい。ポルノ女優であるストーミー・ダニエルズさんとの不倫行為(2006年のこと!)や、彼女に口止め料を支払ったことは、確かに世間のひんしゅくを買う行為である。とはいえ、いずれも刑事罰を伴う性質のことではない。
ところが2016年10月、ヒラリー・クリントン候補を相手とする大統領選挙戦の最終盤になって、トランプ氏は「ここで新たなスキャンダルが飛び出したら身の破滅だ」と不安に駆られたらしい。そこでダニエルズさんに対して13万ドルの口止め料を支払い、それを事業記録に弁護士費用だと計上し、選挙費用からねん出した。問われているのは、あくまでも「業務記録の改ざん」であるから、これを「重罪」と呼ぶべきかどうかは、人にとって意見が分かれるところかもしれない。
明らかに重罪と呼ぶべきは、③「1月6日事件」であろう。現職の大統領が選挙結果を覆そうとしたことは、先進国にあるまじき「民主主義への反逆」である。しかも支持者に対して暴力行為を教唆・扇動し、そのことによって連邦議事堂では実際に死者も出ている。この事件の裁判が、最高裁の審理によって遅延している現状はまことに嘆かわしい。
口止め料事件の裁判では、ストーミー・ダニエルズさんが証言に立ったり、トランプさんが「箝口(かんこう)令違反」で9000ドルの罰金を科せられたりと話題には事欠かなかった。
実際に口止め料を支払った元顧問弁護士マイケル・コーエン氏が「トランプ氏の指示だった」と証言すれば、弁護側が「コーエンは史上最大の嘘つき」と主張するなど、ドラマチックでもあった。ただしこの間、法廷に長時間釘付けになり、自分に対する訴えを黙って聞いていなければならなかったトランプさんにとっては、さぞかし難行苦行の時間であったことだろう。
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