精神科医も悩む「患者本人が望まない入院」の問題 必要であっても日常的な罪悪感を抱えている

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いま論外な強制医療と述べたが、では、論外ではない強制医療とはなんなのか。精神科病棟では、強制入院が法的に定められている。措置入院という行政が決める強制入院に加え、医療保護入院という制度がある。医療保護入院というのは、病院の精神保健指定医と患者の保護者との合意で患者を入院させることのできる制度である。

これは、患者がまったく同意をしていなくとも入院にできるため、強制入院、もしくは非自発入院などとも呼ばれる。かなり多くの患者さんが入院のときに「人権侵害だ!」と言うのだが、実際ふつうに考えれば人権侵害である。しかし、この人権の制限は精神保健福祉法によって定められている。

強制入院が成り立つ事例

どういうときにこの強制入院が成り立つのかといえば「入院治療の必要があるが、患者が同意できないとき」である。例えば統合失調症の幻覚妄想状態で、幻聴に命令されて全裸になってセンター街を走り回ったり、正体不明の諜報組織に付け回されているという妄想があり、道ゆく人に「知ってるんですよあなたたちの狙いは!」などと言って回っている場合、これは多くの場合入院治療の必要がある。しかし、患者さんには病識がないことが多い。つまり、自分の考えていることが妄想であるとか、耳に聞こえてくる声が幻聴であるという認識がないため「病気なので入院しましょう」などと医者に言われても、ピンとこないのである。

一方で、抗精神病薬を使用すると、それなりの数の患者さんから妄想がなくなり、社会復帰ができたりするため、当然この病気を治してほしいと家族は思うし、医者も治したいと思う。そのために、この強制入院のシステムが存在している。

しかし問題は、本人の意にそぐわないことをしているということである。
当然、「病気」が改善した後に話を聞くと、あの時は私はおかしかった、と話すので、この治療はやった方がいいよな、ということになっているわけである。一方で、全員が全員納得するわけでもない、というのが難しいところで、例えば躁状態の人とかはすごく難しい。

多弁で考えが次々に浮かび気が大きくなって寝ないでも大丈夫で一日中活動しまくっているような状態を躁状態というが、そういう人に「入院しましょう」というと、大抵断られる。これが私の本当の姿なのだと主張したりする。外からみていると明らかに周囲とぶつかりあっているし、現実的にトラブルを起こしまくっているので、医療保護入院になり治療がされるわけだが、患者さんの話は全部ではないが一部は納得できてしまうところが必ずある。

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