「千年古びない浮気描写」の妙を角田光代と語る 源氏物語の新訳に挑んだ5年がもたらしたもの

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――「乱暴」というと?

源氏物語は敬語の文学と言われていて、謙譲語、尊敬語、二重敬語など、誰を上げて誰を下げる、という行為から人物同士の関係性がわかるんです。ただ、敬語がたくさんあるがゆえに読みにくいのも事実。ならば、敬語から関係性を探る楽しさはあえて捨ててしまおうと。

会話文以外は基本、敬語を省いて訳しました。あとは、長い文章を短く区切ったり、主語をはっきりさせたり。とにかく端的な文章で、今何が起きているのか明確にわかるようにと心がけました。

話がクリアにわかると人間ドラマが際立ちます。あのときこういうことがあったから、この場所で2人は出会ってしまって、出会わなければ起きなかった悲劇が起こり……みたいな、小説本来の面白さですね。

千年前の「浮気描写」がすごい

――確かに角田さんの訳を読んで、現代に置き換えても古びない言動や場面描写がたくさんあると感じました。

私が現代風にアレンジしたのではまったくなく、紫式部が書いていることそのままなんですよ。びっくりしますよね。

例えば、夕霧という男性の話が印象的でした。長らく引き離されていた相思相愛の人とやっと結婚できて、子どももたくさん生まれて、源氏物語にこんなに幸せな人はほかに出てこないよ、というくらい幸せなんだけど、やっぱり浮気をして。

その描写がすごい。家の中は散らかっていて、子どもが泣いてわめいて、奥さんは片乳出して赤ちゃんをあやしている。一方、浮気相手は未亡人で、しーんとしたきれいな部屋で、しっとりみやびやかに暮らしている。煩わしい日々の生活から逃げ出すような浮気なんですね。

これって、現代でもほぼ同じようなことが起きているじゃないですか。今小説に書かれていても、全然不思議ではない。そういう描写が千年前にすでにあったというのは、すごいなと思いますよね。

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