アメリカとウクライナの足並みがそろわない理由 バイデンの「非満額回答」にゼレンスキーは大不満

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この大目標をゼレンスキー政権と共有していないからこそ、さまざまな問題で対立が起こるのだ。ウクライナ側からすれば、バイデン大統領は早く明確に表明すべきだ。

最後に戦況の現状にも触れたい。軍事筋によると、先述のハルキウ州方面以外でも東部の各地戦線ではロシアが攻撃場所を自ら決められるという意味で、前線での「主導権」を依然握っている。

ロシアの兵力不足と戦車不足

しかしハルキウ方面を中心に次第にロシア軍の攻勢が鈍り始めている。ロシア軍は各地で攻撃を続けているが、2つの問題を抱えているという。それは兵力不足と戦車などの装甲車両が不足しているというものだ。

ロシア軍は、ウクライナ軍が対応に苦慮している誘導型滑空弾という新型兵器を使って空から攻撃を仕掛けてきている。しかし、その下の地域を実際の制圧地に変換するための兵力や戦車がないという。

アメリカからの軍事支援再開で、ウクライナ軍の深刻な砲弾不足も解消しつつある。ロシア軍は依然ハルキウ州方面でも攻勢を続けているが、それが大きな占領地拡大にはつながらず、「攻撃を続けるための攻撃」になり始めているという。

一方で、クリミア半島ではウクライナ軍がミサイルやドローンによってレーダー基地や黒海艦隊への攻撃を活発化させており、クリミア大橋に対する大規模な破壊攻撃の前段階とみられる作戦が目立っている。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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