「40年遺骨収集続ける男」から考える"弔いの意味" 『骨を掘る男』の奥間勝也監督にインタビュー

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━━映画の後半では、監督である奥間さんの大叔母(祖母の妹)の葬儀の場面が出てきます。遺族が、火葬場で焼骨を、長い箸を使って骨壺に入れていく。具志堅さんの遺骨を探す手元のシーンとともに、「弔う」ことの意味を考えさせるもので、「死んだら終わり」という考えが、揺らぐような気持ちで見ていました。

僕も、どちらかというと死に対してドライな感覚でいたのだと思います。骨の哲学のようなことを、この映画でできるかもしれない。大風呂敷なんですけれども、そう考えていました。

今回参考にした映画が、パトリシオ・グスマン監督の『光のノスタルジア』と『真珠のボタン』という作品です。光や水というモチーフを掘り下げることで、チリの独裁政権時代の民衆弾圧の記憶や、過去の植民地主義の問題をあぶりだしていくドキュメンタリー映画です。

僕は骨を見続けることで、沖縄の歴史と今をつなぐことができるのではないのか。そこが出発点でした。

――本作は国際共同制作で、フランスやドイツの制作チームからは、「なんで、骨なんだ?」と聞かれることが、多かったそうですね。

骨を箸で拾う儀式の意味を映画の中で言及してくれと、海外のチームからは要望がありました。迷いましたが、何をやっているのかを説明することよりも、〈死〉に際して、集まった人たちが時間を共有する。それを大事だと思っていることが観た人に伝わればいいと思いました。

そして、こうした時間をもつことができないのが「戦争の死」だと考えるようになったのです。

具志堅さんは、骨を通じたグリーフケアといいますか、沖縄戦の死者と残された人を結びつける媒介者のような存在なんだと思います。

戦没者24万人の名前を1人ひとり読み上げる

――映画のラスト近く、平和祈念公園の「平和の礎」に刻まれた戦没者24万人、1人ひとりの名前を読み上げていく活動が出てきます。子どもも、米兵の親族も、たくさんの人が読み上げる会に参加している姿が、十数分近く撮影されていますね。

撮影を始めて、これは具志堅さんがやっていることと親和性が高いと思いました。戦没者のことを想う。1日22時間、10日あまりかけて読み上げる。

最初の編集では、あの場面だけで35分、さすがに長いかなあと。ただ、これでこの映画は終われると思いました。

骨を掘る男 具志堅隆松 奥間勝也
『骨を掘る男』「平和の礎」に刻銘された名前を読みあげる奥間監督(C) Okuma Katsuya, Moolin Production, Dynamo Production

――監督ご自身のちゃめっけな人柄がのぞき見えるのが、中学校での読み上げの場面です。後ろのほうで、列に並んでいた女の子が緊張から胸を押さえている。鼓動が伝わってきました。

あのカットは、僕も好きなところです。時報とともに全員が同じ方向を見て、心をひとつにする。それとは違う時間を撮りたいと思っていたので。

――次の構想はもうあるのでしょうか。

リサーチしているのは、生まれながらに障害を負った原爆被害者のひとの話です。すでに亡くなられているので、そのひとを撮ろうとしても撮れないのですが。

朝山 実 インタビューライター

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あさやま じつ / Jitsu Asayama

1956年生まれ。著書に『お弔いの現場人 ルポ葬儀とその周辺を見にいく』(中央公論新社)。ほかに『イッセー尾形の人生コーチング』『父の戒名をつけてみました』『アフター・ザ・レッド 連合赤軍 兵士たちの40年』など。

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