「生涯プログラマー」でやっていくためには? まつもとゆきひろ氏が若手に贈る3つの言葉
──となると、最近盛んに議論されている学校でのプログラミング教育を必須にしようという動きに対しては真っ向から反対の立場ですか?
そういうわけではありませんよ。
現時点だと、プログラミングに興味を持つ入り口が、たまたま雑誌から入ったり、お父さんが教えてくれたりといった限られたものしかありません。仮に授業があったとすると、より多くの人にリーチして、その中からは一定数のプログラミングのことを面白いと思える人が出るでしょう。そういう人は一緒にやろうよ、関心が持てないという人はどうぞ別の道へ行ってくださいということです。
全員がプログラミングできて当たり前とは思っていません。入り口としてのプログラミング教育ということですね。
内なる衝動でドライブしているか?
──まつもとさんが社会人になりたてのころに意識して取り組んでいたことが他にもありますか?
できるだけ仕事を早く終わらせて、自分の環境を整備する時間を作るようにしていましたね。世の中には開発のためのいろいろな道具がありますが、どれがいいのかは試しに使ってみないと分からない。仕事の空き時間ができるとすぐに、どちらのツールがいいのか比較検討したり、ないなら自分で作ってみたりということをやっていました。
そうやって効率化して作った時間を使うことで、仕事と並行してRubyの設計も行っていたんです。もはや時効だから言えますが、仕事は通勤時間で終わらせてしまって、会社に着いてからはずっとRubyのこと、という時期もありました。
就職自体はバブル末期で非常に良かったのですが、入ってすぐに崩壊したので、ボーナスはなくなるし、大変なこともありましたけどね。
──そうなるとせっかく作った環境も思い通りにならないんじゃないですか?
逆ですね。私の仕事は社内で使うツールを作ることだったんですが、お金が入らないのでチームは解散。私はメンテナンス要員として残されましたが、やることはトラブル対応と言っても電源を入れ直すくらいのこと。だからむしろ空いた時間を使ってRubyのことをやれるようになりました。
人によっては同じような環境に置かれたらやる気をなくす人もいるかもしれませんが、私は自分のためのプログラミングとか、やりたいことがいっぱいあったので楽しく過ごしていましたよ。今ほどコンプライアンスは厳しくなかったですし、クビにはならないから、ある意味で理想的とさえ言えますね。
私の場合は常にやりたいことがあって、「一つ終わったから、さて次は何をやろうか」と改めて考えるようなことは一度もありませんでした。一番大きなテーマはプログラミング言語。Rubyもその一つです。それをどう使うかとかいった周辺のことも含めると、その関心は過去30年変わりません。
私の場合はモチベーションがプログラミングそのものに近い部分に向いているので分割できませんが、中にはアプリを作って世界を変えたいというところに情熱を注いでいて、その手段でしかないプログラミングは特に好きではないという人もいるでしょう。それはそれでいいのではないかと思っています。
いずれにしても、自発的にやりたいことがあるから足りないことを勉強する、この部分を高める、といった内なる衝動でドライブしているというのはいいと思いますね。逆にお金によってドライブしているとかなると、けっこう辛いと思います。
──それにしても30年間ずっと変わらず自分をドライブできるものに出会えたということは素晴らしいことですよね。出会える人と出会えない人の差ってどこにあるのでしょうか?
興味深いと思うんですけど、私自身はあまりにも早い段階でそれに出会ってしまって、嫌だともつまらないとも思ったことがないので、やりたいことが分からない人の気持ちを察して一般化するのは難しいです。
ただ、自分がやりたいことがはっきりと分かっている人というのは、俗っぽい言い方になってしまいますが、やっぱり輝いて見えますね。自分を絶えず高めようとする方向へドライブするような内発的な動機が見つかるまで、頑張って探し続けるほかないのかもしれません。
「技術だけで生きる」ことを考えるような人はすでにそれと出会っている人たちなのかもしれないですが、そういうものを日々の生活の中で忘れてしまうというのもよくあること。こういう機会に思い出してもらうというのも、意味のあることかもしれません。
──非常に貴重なお話をありがとうございました。
取材・文・撮影/鈴木陸夫(『エンジニアtype』編集部)
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