元客室乗務員が明かす「カスハラ」困った客の実態 SNSで勝手に画像や動画公開、"理不尽な攻撃"も

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「1人の迷惑行為に付き合って、きちんとルールを守っている他のお客様へのサービスの質を低下させる対応は疑問だったし、今なら考えられません。でも当時は、波風を立てないことをよしとする風潮が残っていたんですね。

チーフは『大丈夫よ、あの人お子様なだけだから』と言って、会社にトラブルレポートをあげようとしませんでした」

当時の航空業界のカルチャーを如実に物語るのが、1983~84年に放送されたテレビドラマ「スチュワーデス物語」だ。

吉岡さんは、堀ちえみ演じる主人公のCA訓練生がクレーム対応として土下座し、周囲から「今世紀最大のガッツだよー!」と褒めたたえられる場面を鮮烈に覚えているという。

だが時代の移り変わりとともに、暴言や暴行、土下座の強要といったカスハラには毅然と対応する流れになっていった。

CAの腕をつかむ、勝手に非常用機材を触る、といった問題行動をとる乗客には、初めは「ご遠慮願えますか?」、次は「やめて下さい」「機長に報告します」などと徐々に注意のトーンを強め、手に余る場合は警察に出動してもらう。

セクハラされたらどうする?

セクハラへの対応も同様だ。「大人しそうな子が狙われる」と話す吉岡さん自身は、悪質な被害の経験は少ないというが、ある日の勤務後、後輩から「お客様にエプロンのひもをほどかれてしまって……」と打ち明けられたという。

「彼女はびっくりして固まってしまったようで、『それは向こうの思うつぼ。ダメなものはダメと言わなきゃ』と伝えました。別のCAは『私なら、そこから先は別料金ですって言っちゃいます』と話していましたが、それも冗談で許していることになる。

私だったら、『いかがされました?』って笑顔でつっこんでいきますね。目では『説明してみろ!』って圧をかける感じで(笑)。やっぱり保安要員である以上、なめられちゃいけないんです」

ANAは今回、カスハラ対応に統一ルールを設けたが、吉岡さんは、

「目の前で起こるカスハラ案件だけでなく、SNS社会の中で生まれる理不尽な攻撃からもCAを守れるか」

という課題も指摘する。

「実際、クレーマー客に動画を撮られて拡散された、後ろ姿の写真をさらされて『パンツの線が出ている』『お尻がムチムチ』などとコメントをつけられた、といった事例が起きています。

実名が書かれた名札の着用をやめたり、機内に防犯カメラを設置したり、対応強化を検討する時期に来ているのかもしれません」

現在研修講師として活動する吉岡さんは、様々な業界で接客業に携わる受講生たちに、

「通常のクレームは貴重なご意見としつつ、理不尽な要求には応じなくていい。カスハラをする人は“お客様”ではありません」

と伝えているという。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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