飼い主が切望「泡を吹いて死んだ」愛猫の死の真相 獣医病理医がすすめない「ネコの飼い方」の結果

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ネコの誤飲や中毒といった事故は、思いもよらぬタイミングで起きます。農薬のような明確な毒物にかぎらず、ぼくたちの身の回りに普通にあるタマネギ、アボカド、ユリ、チョコレート、コーヒー、タバコなども、ネコにとっては危険な毒となります。

家の中で起きた場合は何を口にしたかの推測ができ、まだ対処のしようもあるでしょう。しかし、外に出ているネコの場合は、何に触れ、何を口にしたかがまずわかりません。

胃に物が残っているならまだしも、口にしたのが液体であれば特定は困難を極めます。中毒症状が出るまでの時間も、毒物によってまちまち。原因物質が特定できなければ、有効な治療も難しくなります。

病原体を家に持ち込むことも

この茶トラのネコのケースでは死因の可能性から除外しましたが、外飼いされているネコが感染症を起こし、重篤化してしばしば死に至ることもあります。

例えば、ネコが外に出て病原体を保有している野良ネコと交尾やけんかをすれば、猫免疫不全ウイルス感染症や猫白血病ウイルス感染症といった、さまざまな感染症の病原体に感染する危険があります。

ネコがネズミやカラスなどの野生動物を捕食したり、蚊やダニなどの病原体を媒介する動物と接触したりすれば、それらが持っている病原体にも感染する可能性があります。

そして、この中のいくつかの病原体は、ネコだけでなく人間にも感染するのです。

「ネコは外を自由に出歩けたほうが幸せだろう」という考えは、ネコへの愛情からくるものでしょう。ただ、獣医療に従事している者としては、「外を自由に出歩けるネコは、完全に室内で飼育されているネコよりも不幸になる可能性が高いのですよ」と言わざるをえません。

愛情だけで動物は飼えません。ネコを大事に飼いたいのであれば、飼い主さんにはこのような知識をしっかりと持っていただきたいと思います。

ぼくたち人間も、できることならなるべくけがをせず、病気にならないように過ごしたいですよね。ネコにも健康で長生きしてもらいたいなら、安全な家の中で飼うのが一番良いでしょう。

後編(愛猫を失った男性の「ネコは外が幸せ」という誤解)は、こちらからお読みいただけます。
中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家

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なかむらしんいち / Shinichi Nakamura

1982年生まれ。大阪府出身。岡山理科大学獣医学部獣医学科講師。獣医師、博士(獣医学)、獣医病理学専門家、毒性病理学専門家。麻布大学獣医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都市役所、株式会社栄養・病理学研究所を経て、2022年4月より現職。イカやヒトデからアフリカゾウまで、依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断している。著書に『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』(緑書房,2022)。

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大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

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おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

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