そんな外飼いのネコの飼い主さんのなかには、「ネコという動物は外を自由に出歩けたほうが幸せだろう」と考えておられる方が一定数います。よかれと思って、あえてネコを出歩かせているのですね。
ネコという動物には「自由」とか「気まま」とかといったイメージがありますから、飼い主さんたちがそのような気持ちになるのもわからなくはありません。
ただ、多くの動物の死に接してきた獣医病理医としては、ネコの外飼いは決しておすすめできません。屋外はネコにとって死に直結する危険にあふれており、ぼくはこれまで外飼いが原因で死亡したネコたちをたくさん見てきました。
泡を吹いて死んでしまった
「うちの子が急にもだえ苦しみ出して、泡を吹いて死んでしまったんです」
50代の男性が、飼いネコの遺体を持ってやってきました。
飼い主さんは独身の男性で、ご両親もすでに亡くなり、その雄の茶トラのネコと家族のように接して暮らしていたそうです。遺体を解剖して死因を探ってほしい――病理解剖(剖検ともいいます)の依頼でした。普段から外を自由に出歩いているネコということでした。
外を出歩いているネコが亡くなるとき、その死因はさまざまです。
最も多いのが交通事故死。いわゆる“ロードキル”です。車を運転される方なら、誰しもが一度は、道路上に横たわるかわいそうなネコの遺体を見たことがあるのではないでしょうか。
認定NPO法人「人と動物の共生センター」が行ったネコの路上遺体回収数調査(ロードキル調査:2018)では、日本国内でロードキルによって死亡するネコの数は、保健所で安楽死処分されるネコの数の約10倍にものぼるとされています。
ネコという動物は、急に動き出したかと思えば突然止まったりと、ぼくたちの予想外の行動をしますから、ドライバーの努力にも限界はあります。
誰の目にも死因が明らかなロードキルとは別に、原因不明で特に目の前で苦しんで亡くなったとき、飼い主さんがぼくのような獣医病理医に剖検を依頼されるケースがよくあります。泡を吹いて急死した茶トラのネコは、このパターンでした。
早速、解剖をしてみると、遺体の皮下にはほどよく脂肪があり、栄養状態はよい。毛の状態もよい。一見して健康状態は良好で、大事に飼われていたことがうかがわれます。感染症が疑われる所見であるリンパ節や脾臓の腫れなどは確認できません。