「同性婚容認判決」に漂っている違和感の正体 「結婚からの解放」は、どこへ行った?

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伝統的道徳観を重んじる人々からは、同性婚を支持する声が高まったことと異性愛者の結婚における規範が弱まったことは偶然の一致ではなく相関関係にあるとの声も上がったが、世間からは筋が通らないと相手にされなかった。

多くのアメリカ人は単純に、結婚の重要性についてあまり堅苦しく考えたくないと思っている。そのおかげで周囲の同性愛の人々の居場所ができたという事実はあったにせよ、それは「ゆるい結婚観」の長所のひとつでしかない。

異性愛者たちが古い規範からの解放を求めるのは、彼らなりの理由があってのことだ。彼らには彼らなりの希望や追求したい幸せがある。

過去の教訓に背を向けていいのか

残念ながら、人々が実際に新たな枠組みの中で以前より幸せになりつつあるとか、子供たちが以前よりも恵まれた暮らしを送っているとか、社会的公正という大義がよい結果を生んでいるといった証拠はほとんど見当たらない。右肩下がりの婚姻率や先細りしている親族の数が、より深刻な孤独や活気のない社会以外の何かをもたらしてくれるという証拠も私は目にしていない。

同性婚を認める論拠は、未来の名の下に主張された。だが、今回の判決を可能にした結婚像や家族像は非常に現在志向で、長い人類の歴史の中で得られた教訓に背を向けている。そればかりか、大人を子供たちの利益を優先する(もしくは子供を作ろうという)気持ちにさせるような道義的な主張の多くにも背を向けている。

たぶん、同性婚が既成事実になれば、こうした教訓や主張について改めて考える余裕が社会に生まれるのだろう。たぶん。

だが今のところ、そんな余裕はほとんど見当たらない。この判決に至る道で私たちは何かを失ってきたかも知れないという認識もほとんど感じられない。だから私は、過去と未来の名において、謹んで異議を唱えようと思う。

(執筆:Ross Douthatコラムニスト、翻訳:村井裕美)

(c) 2015 New York Times News Service

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