「同性婚容認判決」に漂っている違和感の正体 「結婚からの解放」は、どこへ行った?

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従来的な理解に基づく結婚とは男女のつながりであり、子供をもうけ、永続的なのが当たり前というものだ。こうした概念は1960〜70年代に危機に突入した。

だが1990年代、アトランティック誌はシングルマザー家庭の抱える問題を大きく取り上げ、ヒラリー・クリントンは夫ビル・クリントン大統領と離婚した場合のマイナス面に思い悩んだ。伝統的なものの見方は当時も影響力をもっていたと考えていいだろう。

大きく変わった異性愛者の結婚観

でも現代は違う。1990年代以降、離婚や婚前交渉、婚外子の出産を受け入れる人の割合は着実に増えてきた。結婚すれば子供を作るのは当たり前との考え方も崩れた。

今回の判決では、結婚する権利は誰にでも認められるべきだとされている。その理由のひとつは、婚姻制度は「子供や家族を保護する」役割をもつからだ。

だが判決の正しさを担保するはずの世情は変わりつつある。そうした婚姻制度の役割はもはや重要ではなく、いいものかも知れないがさして必要なものではないとの考えが広がってきているのだ。

同じことは結婚そのものにも言える。アメリカは一部の欧州諸国ほど「進んで」はいないが、婚姻率は過去最低レベルを推移しているだ。結婚離れの急先鋒は、同性婚を率先して支持した「ミレニアル世代」(1980〜2000年ごろに生まれた人々)だ。

ミレニアル世代はケネディ判決には同意するかも知れないが、彼らの行動を見ていると、結婚を「社会秩序のかなめ」とするケネディの考えは古臭く思えてくる。ミレニアル世代の考え方はもっとゆるい。彼らにとって結婚生活とは人を愛したり生活したり子育てしたりするためのひとつの形に過ぎず、それぞれの自由意志に任されるべきものだ。

この考えにおいて、同性愛者の権利運動は二重に勝利を収めたと言える。同性愛者の保守派は同性愛カップルが世間並みのことをする権利を勝ち取ったし、「世間並み」の定義も、文化の急激な変化のおかげでかつて革新派が怖れていたよりも緩やかなものになったからだ。

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