モノ言う株主・丸木氏が語る「日本企業の経営問題」 見過ごされる「ガバナンスウォッシュ」とは

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しかし、そもそも株主から預かった資産を使って取引先の株を買い、取引先の取締役の地位の保全に協力していいのかという問題があります。

それに、経営者の味方として議決権を行使することに明示的または黙示的に合意している複数の政策保有株主は、その持ち株数の合計が発行済み株式数の5%以上になれば、本来なら金融商品取引法に則って「大量保有報告書」を「共同保有者」として提出しなければならないはずです。

ところが今のところ、そのような事例はありません。これは同法違反の疑いがあるのではないかというのが、私の持論です。

いわゆるウルフパック(複数の株主が協調関係にあることを隠し、一気に対象会社に攻勢をかけ、株価向上策や株主還元といった要求を実現させようとする投資戦術)が話題になるのですから、こちらの政策保有株主パックも問題にすべきでしょう。

取引先から「株式保有を強制」の問題

取引先から、株式保有を事実上強制される場合もあるようです。これなどは、独占禁止法上の不公正な取引方法である、「優越的地位の濫用」に似た行為の被害者であるともいえます。

また通常業務にも影響を及ぼしかねません。例えば、取引関係の維持を株式の持ち合いに頼るようになると、製品やサービスの質を向上させようというインセンティブが働きにくくなります。

逆に株を持ち合っていないことを理由に取引を断られたり、株を保有していることで取引という利益が得られたりすることがあるとすれば、これは株主への利益供与を禁じた会社法に抵触する可能性すらあります。

私はずっと問い続けているのですが、株式保有と取引との因果関係、つまり「株を保有していると、なぜ取引が維持でき、円滑になるのか」について合理的な説明を聞いたことがありません。

株を保有していなくても、製品やサービスの質が良ければ取引してもらえるはずですし、将来の協業をめざして業務提携もできるはずです。

だとすれば、なぜ株を持ち合うのか。安定株主として常に経営者の味方をすることを条件に取引させてもらっているという理由以外、まったく思いつかないのです。

だから我々は、投資先企業が政策保有株を持っている場合には、「すべて売却してください」と提案するのが常です。しかし、そう簡単には売れないというのが最初の反応です。やはり先方との関係が崩れ、円滑な取引ができなくなることを懸念されているようです。

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