金融資産の台帳作成で国際連携を提言
著者は、話題の書『21世紀の資本』を書いたトマ・ピケティ氏の若き共同研究者である。本書の特徴の一つは、公表されているデータからタックス・ヘイブンにある金融資産総額を推計したことにある。
世界の金融資産のうち8%がタックス・ヘイブンにあり、その額は5兆8000億ユーロ(約810兆円)にのぼる。具体的には30%を占めるスイスを筆頭にケイマン諸島、香港などに所在。著者のタックス・ヘイブンの定義の中には、スイス、ルクセンブルク、アイルランドなども含まれている。
タックス・ヘイブンを利用する最大の長所は、どこからも課税されないということだ。5兆8000億ユーロのうち80%が税務申告されておらず、関係諸国の損失金額(所得税、相続税などの「脱税額」)は年間1300億ユーロに達するようだ。
こうした分析を踏まえ、著者は大胆な政策提言を行う。1.全世界規模での金融資産台帳の作成、2.タックス・ヘイブンに対する金融面・貿易面での制裁措置、3.グローバルな資産課税などである。1.は株式、債券、投資ファンドなどの最終投資家の名前を記した台帳の作成が必要となるが、国ごとには存在する金融資産台帳をまず各国レベルで精緻化、共通化し、その国際的統合を国際通貨基金(IMF)がすべきだという。
日本で考えれば将来的にマイナンバー制度が進化し、個人別の資産総額が判明することが第一段階だろう。そのうえでグローバルな名寄せを行う必要があるが、それにははたしてIMFが適任かどうか。むしろこの方式に参加せずにより多くの資金を取り込もうとするタックス・ヘイブンもあるだろう。
とはいえ本書は、タックス・ヘイブンをきわめて経済学的なアプローチによって解明した啓蒙書として特筆できる。
Gabriel Zucman(ガブリエル・ズックマン)
英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス准教授。専門はグローバルな富の蓄積と再分配、公共ファイナンス。1986年生まれ。2013年、パリ経済学校で博士号(経済学)を取得。米カリフォルニア大学バークレー校研究員を経て、14年から現職。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら