この対立をなくすためには、《だれもが受益者》になるしかありません。やりかたは二つ。一つは全員にお金を配ること。もう一つは、サービスを全員に配ることです。
前者は、いわゆるベーシックインカムですね。この場合、まさしく全員にお金を出すことになりますから、相当な費用がかかります。
一方、後者のベーシックサービスであれば、必要な人しかサービスを使いませんから、コストを大幅に減らすことができます。
幼稚園がタダになったからといって、幼稚園に入りなおす大人はいません。健康な人はわざわざ仕事を休んで病院に行こうとはしません。
この強みをいかして、高齢者には介護、子育て世代には大学といったように、それぞれが必要とするサービスを全体にバランスよく配っていけば、低いコストで全体を受益者にしていくことができます。
サービスとお金の違い
もうひとつ確認しましょう。それは、お金は疑心暗鬼を生むという問題です。
たとえば、障がい者に車イスを貸すとします。障がいのない人はそんなサービスは不要ですから、見向きもしないでしょう。
でも、お金を出すといったとたん、障がい者のふりをして不正を働く人があらわれるかもしれません。社会の全体が「あいつは不正な利用者では?」と心配になるでしょう。これがお金を配ることの難しさです。
サービスとお金の違いは、歴史からも学ぶことができます。
江戸時代の農村コミュニティを見てください。人びとは田植えや稲刈り、屋根の張りかえ、警察、消防、寺子屋のような初等教育、さらには介護までも、地域に住む人たちがみんなで汗をかき、お互いの《必要》を満たしあって生きていました。
お気づきですか? これらはすべてサービスです。お金ではありません。
メンバー全員にお金を配ると、そのための財源が必要になりますが、みんなで汗をかく=同じお金を出してみんなに配るのでは意味がありません。
ですから、歴史的には、みんなでひと所にお金を蓄えて、順番に給付を行ったり、必要に応じてそれを借りたりする方法をとりました。大人も、子どもも、みんなに同時にお金を配るという経験はあまり例がないのです。
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