日本中が熱狂「新NISAブームの今」の不都合な真実 後藤達也×田内学「お金と投資」対談【前編】

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後藤:私も日本が新興国に逆戻りして、生活水準を保つのが難しくなるのではないかという懸念は持っています。

田内:そんな状況の中で、新NISAが始まったのですが、新NISAではオールカントリーやS&P500のETFに人気が集まっていると聞きます。

これらの投資は当然、外貨で行われます。外貨で投資する人が増えれば、所得収支が増える。実際に日本は昔から所得収支が多くて、貿易赤字以上の黒字があるおかげで、経常収支はプラスです。所得収支が増えて、貿易赤字とある程度打ち消しあって、経常収支はプラスに保てるかもしれません。

しかし、実際に中身を見ていると、所得収支が多い企業は現地に工場などを持っていたりするからリターンが多くなっているだけなので、そこで得られた利益はなかなか円に戻ってくるものではありません。

また、個人でも外貨で資産を作っている人は富裕層が多く、彼らがドルを買うことによって円安になると物価が上がってしまって、富裕層ではない人たちの生活がより一層苦しくなってしまいます。

このように考えると、ここ数年進んでいる為替の円安は、トータルでは日本にプラスになっていないように思えるのです。

後藤氏「長期的にはもっと円安が進むリスクも」

後藤:日本の貿易の力が弱くなってしまったのは認めざるを得ない事実ですね。例えば2000年ぐらいのころを振り返ると、ほとんどの人がNECやパナソニック、または東芝といった国内メーカーの携帯電話を使っていました。でも、今のスマホはアップルのiPhoneやサムスンなど海外メーカーのものです。

そんな状況なので、円安になったからといって日本メーカーの輸出が増える時代ではとうになくなってしまっているのですよね。

むしろ、日本人が海外のものを買ったりとか、あるいはサービス面においても、グーグルやアップルを経由したサブスクを利用したり、YouTubeを見たりして、海外企業の売り上げ増に貢献しているのが実態です。

為替のダイナミズムで言うと、従来は、円安が進めば外国の人が「もっと日本の電化製品を買おう」とか、あるいは、日本人もグーグルのサービスを使うのではなくて、「日本オリジナルのサービスを使おう」となるはずなのに、そうならなくなってしまっています。この流れは止まらないように思います。

正直、半年とか1年後の為替水準がどうなるかはよくわかりませんが、先ほどのような状況が変わらないのだとすると、長期的にはもっと円安が進むリスクも頭においておいたほうがいいですね。

(構成:小関敦之)

中編、後編の対談記事はこちらから(後編は日経BOOKPLUSに掲載)
【中編】投資ブームを煽る「誇張や断定」とどう付き合うか
【後編】注目の著者が激論「投資教育の是非について」

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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後藤 達也 ジャーナリスト

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ごとう たつや / Tatsuya Goto

2022年からフリージャーナリストとして、SNSやテレビなどで「わかりやすく、おもしろく、偏りなく」経済情報を発信。2004年から18年間、日本経済新聞の記者として、金融市場、金融政策、財務省、企業財務などの取材を担当し、2022年3月に退職。2016~17年にコロンビア大学ビジネススクール客員研究員。2019~21年にニューヨーク特派員。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)。

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