「結論ありき」プロジェクトが大抵失敗する理由 夢の自宅改築が悲劇になった夫婦の計画から学ぶこと

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「大きな図面のロールを抱えてきたよ」とデイヴィッドは回想する。「8通りの設計を見せてくれた。1つひとつをくわしく説明してから、なぜそれではダメなのかを解説し、それから次の図面を取り出して設計を説明し、またこんなことを言っていた。『実は、これも完璧ではありません。別の設計をお見せしましょう』って」

建築家が慎重に設計したリフォームの見積もりは、トータルで17万ドル。大金だが、物価の高いニューヨークではそんなものだろう。夫妻はリフォームを行うことに決めた。工事中は仮住まいに引っ越し、3カ月後に戻る予定だった。

始まったとたん注文を「追加」をしたくなる

「プロジェクトは始まったとたんに変形し、崩壊し始めた」とデイヴィッドはため息をつく。

施工業者は1階のキッチンに来ると、その場で飛び跳ねて床板の具合を確かめた。何かがおかしかった。古いキッチンを取り外し、その下を見て理由がわかった。「1840年代に手抜き工事が行われ、その後も放置されていたせいで、建物全体を支えられるだけの構造がなかったんだ」。1階の床をいったん全部取っ払って、そこから地下の建物の基礎部分に鉄骨梁と支持材を入れることになった。

夫妻はショックから立ち直ると、古くて見栄えの悪い床板について考えた。どうせ一度はがすのだから、古いものを戻すより、全部新しくしてしまったらどうだろう? キッチンの床はどのみち交換しなくてはならない。「床を半分だけ新しくして、残りはそのままってわけにはいかないだろう?」。夫妻は1階の床の総張り替えを決めた。

すると今度は、キッチンの隣のリビングに備えつけられた、雑な素人仕事のレンガの暖炉が気になり始めた。この際、これも取り替えてしまおうか?

そして、リビングにはさらに気に入らない部分があった。リビングの真横の階段脇に、小さな化粧室があった。デイヴィッドの母親が「品がない」とけなした部屋だ。あれを動かしたらどうだろう、床が撤去されている間なら簡単に移動できるし、と夫妻は考えた。「建築家は図面を一から引き直した」とデイヴィッドは言う。

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