「なぜそれをするのか」をまず固める
世界に誇る建築家のフランク・ゲーリーは、けっして答えから始めない。「私はタルムード(ユダヤ教の経典)を読んで育った」と、私が2021年にインタビューしたときゲーリーは語ってくれた。「タルムードは問いから始まる」。これはユダヤ教では当然のことだと彼は言う。「ユダヤ人はどんなことにも疑問を投げかけるんだ」
ゲーリーの言う「疑問を投げかける」とは、猜疑(さいぎ)や批判ではないし、ましてや攻撃や破壊でもない。学びたいという、開かれた心を持って問いかけることだ。ひとことで言えば、「探究」にあたる。
「好奇心を持つんだ」と彼は言う。「見たものがすべて」だと錯誤してしまう、人間の自然な傾向の正反対である。ゲーリーは、もっと学ぶべきことがあるはずだという前提に立ち、おかげで錯誤の罠に陥らずにすんでいる。
このスタンスで、ゲーリーはクライアントに会うと、最初にじっくり時間をかけて話し合う。といっても、雑談や社交辞令を交わすのとは違うし、ゲーリーはクライアントとの打ち合わせの際、湧き上がるビジョンを語ったりはしない。
ゲーリーがするのは、問いかけだ。好奇心だけを持って、クライアントのニーズや願望、恐れなど、彼らがゲーリーのドアを叩くきっかけとなったあらゆることを聞き出している。そしてこの会話は、単純な問いから始まる。「なぜこのプロジェクトを行うのですか?」
プロジェクトがこのようにして始まることはほとんどない。だがすべてのプロジェクトがそうあるべきだ。
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