プロジェクトに失敗する人と成功する人の決定差 世界に誇る建築家の功績は「なぜ」から生まれた

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ゲーリーは古い倉庫を見て回った。建物自体は気に入ったが、そのような目的のプロジェクトにふさわしいとは思えなかった。建物を解体して一から新しい美術館を建てることもできるが、ほかの用途に使える建物を壊してしまうのはしのびない。

ゲーリーには別のアイデアがあった。彼は川沿いの工場跡地に目をつけていた。改築のことは忘れましょう、と彼は言った。この川沿いの土地に、目を見張るような新しい美術館を建てるのです。

政府高官はこのアイデアを受け入れた。それも当然のことだった。経済活性化という野心的な目標を達成するためには、観光客を呼び込むことが欠かせない。建物を改築して、その中に新しいグッゲンハイム美術館をつくれば、理屈の上では大きな注目を集められるかもしれない。

しかしその可能性が現実にどれだけあるというのか? 改築が世界に衝撃を与え、世界中から観光客を呼び寄せたことが過去にあっただろうか? そんな例は思いつかない。だが、すばらしいロケーションに新しく建てられた斬新な建物なら、世界の熱い注目を集められるし、実際に集めている。シドニー・オペラハウスのように、膨大な観光客を引きつけている実例がある。

大変な挑戦であることに変わりはないが、それでもバスク州の望みを実現できる可能性は高いと、ゲーリーは論じた。

「達成したいこと」を最後まで見失わない

そうして完成した建物は、建築の批評家や一般人からも一様に絶賛され、グッゲンハイム・ビルバオは一躍世界の脚光を浴びた。観光客はビルバオに押し寄せ、お金を落としていった。開館後の3年間で、かつてスペインの知られざる辺境だったビルバオに400万近くもの観光客が詰めかけ、経済効果は10億ドル(2021年の金額)に達した。

グッゲンハイム・ビルバオが、フランク・ゲーリーの想像力と才能、そしてプライドによって生み出されたのは間違いない。だがこの建物の原型を形づくったのは、プロジェクトの「目的」だった。

ゲーリーの実績を見ればわかるように、彼はもっとささやかで地味な建物を設計することもできた。実際、ビルバオの数年後にも、フィラデルフィアの小規模な美術館の改築を手がけている。

だがビルバオのクライアントは壮大な目的を持っていた。だから、それを最善の方法で実現するために、ゲーリーは美術館を今ある場所に、今あるかたちでつくったのだ。

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