海外での腎臓移植を望む50代女性が陥った"罠" 海外「臓器売買」の闇を追う調査報道のきっかけ
本田は家族に相談の上でNPOに連絡し、実質代表者(後に理事長)の菊池仁達(ひろみち)と電話やメールでやりとりを始めた。本田より4歳年上の菊池からは当初、東欧・ブルガリアでの移植を勧められたが、その後、ウズベキスタンを提示された。
一度も足を踏み入れたことのない異国での移植手術に、本田は大きな不安を感じたが、ほかに早く手術を受けられる方法は見当たらなかった。
NPOから伝えられた移植費用は約1850万円。本田にとっては大金だったが、貯めていた預貯金で何とか用意することができる。本田は「これで健康を取り戻せるのなら」と、藁(わら)にもすがる思いで移植の仲介を依頼することに決めた。
口座振り込みで金を支払う際、費用の内訳について聞くと、菊池は「これは闇だから」と多くを語らなかったという。契約書も存在しなかった。それでも、本田はNPOに紹介された新大阪駅近くの医院で血液検査を受け、渡航の準備を進めた。
「親族間の生体移植」を装う
日本を出発したのは21年6月。空路、ウズベキスタンの首都タシケントに入った。それまで電話とメールでやりとりしていた菊池と現地で初めて会った。通訳のカタリナからは「トルコ人のコーディネーターが関与している」と聞かされた。
菊池の当初の説明では「40日で日本に帰れる」とのことだったが、「ドナーが見つからない」と言われ、手術日がなかなか決まらなかった。「どうなっているのかしら」と思いながら、タシケント市内のホテルで滞在を続けた。