国際自然保護連合(IUCN)の正式な推計によると、現在、野生のヤクは世界中で1万頭ほどしかおらず、絶滅危惧種に指定されている。
野生種(ノヤク)は体長2m、肩高1.6m、体重は1トンにも達する大型動物。その形状は牛に似ているが、体表はひづめの辺りまで達する黒くて長い毛に覆われている。
想像をはるかに超えてくるヤクの有用性
チベットの山岳民族は、2000年も前からヤクを飼いならし、家畜として活用してきた。ヤクの乳からは、バターやヨーグルト、チーズなどが作られ、彼らの主食となっている。
1カ月ほど前、北インドのバシストにあるジャーマンベーカリー(ドイツのパン屋)で、ヤクのチーズパンを食べた。
その味は濃厚で、臭みがあり、塩味も感じられた。
ヤクのチーズパンは、西洋人のバックパッカーに大人気で、朝早くから行列ができ、1時間もすれば完売してしまうほどであった。
他にも、ヤクはさまざまな用途で使用されている。
糞便は農作地の肥料となり、カラカラに乾燥させて燃料としても用いられる。これはチベットの山岳に住む遊牧民族にとって極めて重要な役割を果たす。
かつて、人々がチベットの寒冷山岳地帯を長期間かけて移動する際、食料の確保と同様に、燃料の確保も生死に関わる問題であった。しかし、旅に必要なすべての荷物を持ち運ぶことはできない。
そこで、先人が通った道を示す目印となるヤクの糞を、補給燃料としても活用していたのだ。
寒冷砂漠地帯の荒野では燃料となる木々を見つけるのが困難だが、ヤクの糞は牛や馬に比べると、火の勢いが強く、長時間持つ。極寒の夜を過ごす旅人にとって、ヤクの糞は、まさに神からの贈り物なのだ。
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