小林製薬の「紅麹問題」初動対応の"致命的な欠点" リスク広報から見て何が悪かったのか?

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今回、問題になっている「紅麹コレステヘルプ」(写真:小林製薬のサイトより)

小林製薬の場合は、自社で事象への対応に注力していたが、そこから波及する影響への見積もりが不十分で、適切な情報開示や関係各所との連携といった対応が後手に回ってしまったと言える。

有事対応は、慣れていないとなかなか適切にできないものであるし、事前の備えも重要になる。ところが、これまで深刻な問題を起こさなかった「健全な企業」ほど、有事対応が手薄になりがちになるというジレンマが生じがちだ。

一方で、有事対応を適切に行うことで、ピンチをチャンスに変えることができる企業もある。前の記事(「マクドナルド「どん底→V字回復」の知られざる軌跡」)で書いた異物混入等の事件による危機からV字回復を遂げたマクドナルドや、経営破綻から復活したJALが好事例となる。

小林製薬がこれから取るべき対応

不手際はあったものの、現時点では、本事件が作為的に起きたものではないようであるし、情報公開の遅れは、隠ぺい工作を行っていたことによるでもないようだ、

小林製薬の対応は不十分ではあるが、改善を図っていこうという姿勢は感じられる。今後も症例は増えていく可能性もあるし、さらなる死亡事例も出てくるかもしれない。健康被害の原因究明、商品の回収と並行して、被害者の方々との向き合い、自社だけでなく他社も含めた企業や商品イメージ低下のリスクへの対応など、様々な対応が求められる。

筆者は3月28日、ある外食企業の株主総会に出席したが、株主から紅麹に関する質問が出ていた。影響の及ぶ範囲の大きさを自覚した次第である。消費者の身でなく、取引先への対応も広範に及びそうだ。

小林製薬の「有事」の状況はこれからも続くだろうし、これからが本当の正念場と言えるかもしれない。3月29日には改めて記者会見を開く予定だ。同社には、関係各所に対して、迅速に適正な対応を行う必要があるが、それを可能にするには、有事に合わせた体制強化が求められる。

西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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