再燃する医療費問題、社会保障と税の「一体改革」が大迷走
大半の先進国で公的医療費は総医療費の大勢を占めるが、その公的医療費水準を決める重要な要因が国民負担率(GDPに占める租税と社会保険料支払いの比率)という数値だ。
これはいったん市場原則の下でGDPから分配された賃金や企業利潤などを、政府が税や社会保険の形で徴収し、医療・介護や年金、教育などの分野で国民に再分配する比率を示している。この再分配のパイの大きさが、公的医療費などの水準を決める大きな要因となる。
日本の国民負担率は28・1%と、欧州主要国より9~18%も低く(同表)、比例して公的医療費も低い。もっとも、公的医療費がその水準で済んでいるのは、国民の健康や生命に直結する医療が再分配の中で優先されている側面があるからだろう(日本の子育て関連等の公的支出は欧州主要国比でもっと低い)。
こうした公的医療費抑制のシワ寄せが、まだ国民の健康状況にまで及んでいないのは幸運なことだ。日本は世界最高水準の平均寿命だけでなく、OECD(経済協力開発機構)の疾患別死亡率の統計を見ても、国際評価でトップ級を維持している。
ただ、少ない資源投入量(支出)で高い成果を上げているのは、逆に言えば、医療従事者1人当たりの労働量が過重になっている面があるということだ。中医協委員の資料によると、日本の医師の1週間当たり労働時間が70時間なのに対し、欧州平均は48時間。国民人口1人当たりや1病院病床当たりの医師数も日本は先進国で最低だ。
これを医療費支出のサイドから見ると、次のようになる。
高齢化の進行で、日本の医療サービスの数量は放っておいても増えていく。総額の自然増を抑制するためには、大学病院への運営費交付金(補助金)などを減らすだけでなく、医療サービスの単価(診療報酬)を抑えるしかない。
その結果、運営が苦しくなった病院経営者は、医師など医療従事者を増やすことがままならず、1人当たり労働量は過重になるという循環に陥る──。