YouTuberの論理がZ世代に与える絶大な悪影響 苦言を呈する「アンチ」に「アンチ」する世界観

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苦言を呈してくる人はアンチなので、アンチにはアンチしないといけない。このあまりに単純で安易な世界観が若者に着実に浸透しつつあることを、筆者は肌身で感じているし、けっこう危惧している。大学でそうなっているのだから、そのうち職場でもそうなるだろう。つまり、会社でZ世代を注意したら、即刻アンチと認定されるのだ。そんなの正直、やってられない。でも、われわれの社会は、着実にそうなっている。

「アンチ─アンチ」は人生の指針にはなりえない

世界を推しとアンチに分断するというあまりに安直で、そして場合によっては便利な世界観は、SNS隆盛の現代においていっそう加速している。その背後において、集客によって金を生み出すという仕組み、つまりむき出しのビジネスの論理が加速装置として機能していることは見逃せない構造だといえる。

改めてビジネスの話をすると、ビジネスの世界ではセグメンテーションといって、想定する顧客の属性を細かく区切るのが当たり前である。なおセグメンテーションは、経営学の一分野であるマーケティング学で発展した知見でもある。で、そして、広告宣伝はその顧客だけを向いておけばいい。20代女性向けのサービスは、30代男性の筆者には決して刺さらないし、刺さる必要もない。

この「向いてる方と向いてない方」を分断するのが現代のビジネスの基本論理であり、この応用がアンチ─アンチなのだ。インフルエンサーは客の方だけ向いておけばよくて、アンチは無視するか攻撃し返すのが正しい。繰り返すがこれはマーケティングの有力な手法というだけであって、人生の指針として正しいかはまったく別だ。

そう言える理由はいくつかある。シンプルな理由としては、アンチ―アンチしても、われわれの(長期的な)得にはならないからだ。インフルエンサーは、アンチ認定をすることでファンを繋ぎ止め、結束を高め、収益を得る。収益のためにそうしているのだ。しかし、お金も出ない日常で他者をアンチ認定しても、われわれには一銭も入ってこない。それどころか、自らへの信頼を失って、人間関係が悪くなるだけだ。何の疑問もなく推しに従い、リアルでも「アンチ―アンチ」するZ世代は、そういったリスクをどうやら勘案できてはいないのだ。

舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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