ただし、かつてのような故人の顕彰を目的とした依頼は少ないそうだ。大半の依頼者はプライベートな目的で故人の面影をとどめたいと考えているようだ。それを裏付けるように、工房には門下生や部下のような、遺族や親族以外からの依頼はまだ一度も届いていないという。
「面影を手元に置いておきたい、というより、愛する故人に『そばにいてほしい』というほうがニュアンスが近い気がします。デスマスクや手形にすれば、その人らしさが立体で帰ってきます。そこに価値を求める人が多いのではないかと思いますね」(権藤さん)
権藤さん自身、母が亡くなって遺骨になった後で「デスマスクを取っておけば良かった」と後悔した経験を持つ。その思いと、若い頃に美術学校とイタリア留学で学んで育んできた彫像の技術、定年まで働いた葬儀社での経験が重なって工房スカラベを立ち上げるに至った。
石膏像は1カ月で納品
依頼を受けると、権藤さんは故人が安置された自宅や斎場に向かい、依頼者を含む遺族の前で顔や右手の型を取る。遺族や親族の同意がなければ事を進めない。依頼者には事前に周囲に同意を得ることを求めているが、葬儀の折に急いで駆けつけた親族すべての意向を確認するのは難しい場合もあり、現場でキャンセルされたことも数回あるそうだ。
また、故人が伝染病を保有している場合も対応しない決まりだ。先のコロナで亡くなった少年のケースでは、ウイルスの影響がなくなっているという医師からのお墨付きがあったため、通常通りに進めることができた。
型取りにはシリコン樹脂を使う。デスマスクは故人の顔に塗り、30分ほどして固まってきたらガーゼを被せて重ね塗りする。その上に石膏でできたカバーを乗せ、完全に固まれば型ができあがる。ヒゲなどがある場合はクリームで固めたうえでシリコンを被せていくが、完全な再現は難しいところがあるそうだ。
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