発想転換の巧みな実例が、2000年代はじめにテキサス州ヒューストンの空港で見られた。当時、空港運営側は、預入荷物が出てくるのを待つ搭乗客からのクレームの多さに悩んでいた。調べたところ、搭乗客は平均およそ8分間待たされたところで我慢の限界に達し、文句をつけることが多いとわかった。
そこで運営側が考案したのは、ほとんどコストのかからない対策だ。入国審査後の順路を変更した。搭乗客は荷物の回転テーブルにたどりつくまで、それまでよりも長く歩かなければならない。具体的に言えば8分長くかかる。回転テーブルに到着する頃にはすでに荷物が来ているというわけだ。
重要なのは「受け手の認知」
荷物をピックアップする時間は結果的に同じなのに、クレームは激減した。『ニューヨーク・タイムズ』紙で、この空港再設計に関する記事を書いた記者アレックス・ストーンの表現によれば、「待ち時間の客観的な長さは、待つという体験を定義する一要素にすぎない」。
より重要なのは受け手の認知なのだ。何もせずただぼんやりと待つ時間は、別の用事をしながら待つ時間よりも、かなり長く感じられるのである。
ディズニーのテーマパークと、ヒューストンの空港の例は、体験の足を引っ張る要素を埋めることの意義を教えている。企業は自社商品の都合の悪い部分に向き合いたがらないことが多い。マーケティングでも、良い部分を強調する努力のほうが、やりがいを感じることだろう。だが、エビデンスを見る限り、それは出発点として間違っているのだ。
(翻訳:上原裕美子)
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