アメリカ人俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、乳がんと卵巣がんの発生率が高くなるとされる、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子であり、かつ、がん抑制遺伝子でもあるBRCA1に変異が見つかり、今後乳がんになる確率が87%と診断されました。
母親が56歳の若さで卵巣がんによって亡くなっていることもあり、ジョリーさんはまだがんになっていない両側の乳房切除を決断し、実際に手術を受けています。
患者さんの遺伝子を解析することで、将来がんを発症する人にはどんな遺伝的な特徴があり、実際に発症した場合は、どんな大きさでどのくらいのスピードで病気が進行するかまでわかるようになっているのです。
オーダーメイドの病気予防が可能に
「エピゲノム」の研究も、病気の予防に大きく貢献すると考えられています。
エピゲノムは食事、運動、生活リズムなどによって遺伝子(ゲノム)の働き方をコントロールする仕組みです。現在、世界中でエピゲノム研究が進んでいますから、2030年ごろにはオーダーメイドの病気の予防が可能になると考えられます。
つまり「あなたはこういう病気になりやすいので、こういう食事をしたほうがいい」といったことが個人単位でわかるようになり、それを病気の予防や健康維持に生かせるようになります。
「センシング」の進化も予防医学の普及を後押ししていきます。
センシングとはセンサーを使って、さまざまな生体情報を24時間365日計測し、数値にして可視化する技術のことです。身近なところではアップルのスマートウォッチがその代表格です。いまや、iPhone 本体もセンシング装置を兼ねつつあります。
センシングの研究がさらに進めば、思いもよらない生体情報が健康維持や病気の早期発見の指標として使われる可能性があります。自宅や職場にもセンサーが付けられ、食事、入浴、仕事など日常生活のさまざまな場面から得られたデータを分析して、健康維持のアドバイスをしてくれるのがあたりまえの風景になるかもしれません。
未来の診察室は、センシング専用の部屋となる可能性もあります。そこに「人間医師」はいません。
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