33年ぶり春闘「賃上げ」の恩恵がある人、ない世代 若いころ描いた賃金に届かない氷河期世代の今

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この傾向は、20〜24歳の賃金水準(≒新卒年収)を「1」として指数化するとわかりやすい。

賃金カーブはほぼ一貫してフラット化してきたことから、すべての年代で生涯年収は初任給を基準とすると下振れとなるが、やはり40代の下振れ傾向が目立つ。

例えば、43歳では、20歳の時の期待生涯賃金は64.4だったが、現時点の実現賃金と期待賃金の合計は57.0となり、下振れ率は11.5%である。

言い換えると、20歳の時は「生涯で新卒年収の64.4倍程度はもらえる」と思っていたが、現時点(43歳になってみると)「57.0倍程度にとどまりそうだ」という状況である。

賃金と株価、氷河期世代はダブルでダメージ

重要なのは、「新卒年収」で換算しなくても、名目金額ベースで40〜49歳は「20歳の時の期待生涯賃金」に現時点の期待値がとどいていないことである。

奇しくも、この世代は株価低迷を長く経験してきた世代であることは、以前のコラムでも分析した通りである(『株高の追い風で「明るい世代」は"多数派"になるか』)。株価と実体経済の連動性を考えると当然なのだが、金融所得と労働所得の双方が格差を拡大させている。

社会では中堅からベテランに差し掛かっている氷河期世代のマインド底上げは、明るい世代が自然と増えるタイミングを待つよりも即効性があるだろう。賃上げ率だけでなく、「賃金カーブ」のフラット化がはらむ問題にも対処が必要なように思われる。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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