鳥山明さんの死を台湾人が惜しむ現代史的背景 1980年代からの民主化の過程に「七龍珠」が輝いた

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そして、この流れに乗って台湾の家庭にまで浸透していったのが、志村さんの番組であり、鳥山さんの『ドラゴンボール』に代表される日本のソフトコンテンツだった。

それまでリアルタイムの日本に直接触れる機会が少なかった世代が、ビデオや漫画を経由して、一気に接することができるようになった。

大人の世界では、前述の鄭南榕さんのような民主化に刻まれた劇的な事件が起きるなど、民主化への躍動と希求が募っていたのに対し、子どもの世界では日本のエンタテイメントやコンテンツが爆発的に広がった時期と言えるだろう。

日本の漫画雑誌を競うように読んでいた台湾

日本のコンテンツに対する人々のニーズはすさまじく、ビジネスとしても急成長する。まだ著作権への遵法意識が低かったことに加え、国交がないことで国際間の取り決めが十分に浸透しない時代だった。

そのような抜け道やグレーゾーンが多かった状況を逆手に、多数の漫画やアニメが翻訳出版されることになったのだった。

その中には、今ではとても考えられないことだが、『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』、それに『週刊少年チャンピオン』を1冊にまとめた漫画雑誌までも発売されたことがある。

発行スピードは驚異的で、日本でオリジナルが発売されるとただちに台湾に持ち込まれ、すぐに翻訳しながら印刷される。

いつの頃か、日本から正規に空輸された『週刊ジャンプ』よりも速く読めてしまうので、現地在住の日本人子女も台湾版を購読し、日本国内の流行をキャッチアップしていたという。インターネットがない時代において、日台間の情報伝達のタイムラグを最小限に食い止めていたのだった。

その中で『ドラゴンボール』は大陸中国的な教育が強化された戦後の台湾で、しかも「悟空」と言っても古典の西遊記の孫悟空しかイメージできなかった1980、1990年代の台湾人の子どもが思い付きさえもしない世界観と、洗練、かつ特徴的な日本漫画らしいデザインで台湾の人たちを魅了した。

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