メタボは自然界では想定されていない--『生物学的文明論』を書いた本川達雄氏(東京工業大学大学院生命理工学研究科教授)に聞く

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──生物はリサイクルできる強みもあります。

腐るということはリサイクルできるということ。水っぽければ化学反応がすぐ起きるから、死ねば分子に分かれて、植物に吸われて、リサイクルされることにもなる。一方で、技術が作り出した硬くて乾いているプラスチックは大方がリサイクルできない。壊れても排除できず、廃棄物になってしまう。これからますます自然と行き来できるような技術を考えなければいけない。

──ミツバチでは、巣が大きくなると働かないハチも出てくるようですね。

要素を足し合わせればシステムができる。要素さえわかればその足し合わせた結果はわかるというのが大方の学問だ。ところが、システムに入ると要素の働き方が変わるということが生物ではしばしば見られる。ミツバチは巣が大きくなっていくと、働かないミツバチが出てくる。巣を小さくすると、今まで働かなかったハチが働き始める。

つまり、自然界のエネルギー消費量は要素の数に比例しない。増えていくと逆に減ったりする。私が研究している海産動物・ホヤは、システムを切って分社化すれば働き、システムを融合すると働かず、エネルギーを使わなくなる。ホヤは脳みそがなく、さぼっていいと思っているわけではない。要素が集まって大きなシステムを作ったときに、決して要素の足し算にならない好例だ。こういう例は人間の組織でも思い当たるところがあるはずだ。

──時間感覚も違う?

動物学ではエネルギーをたくさん使えば時間が早まる。人の生活もエネルギーをたくさん使えば時間が早くなる。車を使う、コンピュータを使う、そうすると時間は早まる。人類の最大の環境問題は、この時間環境の破壊かもしれない。

もとかわ・たつお
1948年仙台生まれ。東京大学理学部生物学科(動物学)卒業、同大学理学系研究科博士課程中退。同大学助手、琉球大学講師、同大助教授を経る。専攻は動物生理学。棘皮動物特有の、硬さの変わる結合組織の研究や、群体性のホヤを用いたサイズの生命学、サンゴの生物学などが研究テーマ。

(聞き手:塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済2011年7月16日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。


『生物学的文明論』 新潮新書 777円 248ページ

  

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