第4回ダイバーシティ経営大賞・パネルディスカッション--受賞企業担当者に聞く経営戦略としてのダイバーシティ

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市場がIBMの製品やサービスに沿って成長しているときはそのままでよかったのですが、1980年代から90年代、IT業界では「ダウンサイジング」が起こり、IBMが得意な大型コンピュータから得意ではないソフトウエアや小型コンピュータに市場が移り、IBMは舵取りを間違え、あっという間に赤字に転落してしまいました。そのとき、IBMの再建のために、生え抜き以外で初めてトップとなったのがガースナーです。そのガースナーが「IBMの生き残りの戦略はダイバーシティである」と宣言しました。ダイバーシティとはマイノリティの優遇施策ではなく、マイノリティでも仕事の成果をより公平に評価され、活躍できる組織風土をつくることである、マイノリティだから仕事のレベルが低くていいということではない、ということを繰り返し言って、IBMのダイバーシティを進めてきました。

アメリカでは95年にダイバーシティ推進責任者に役員を据えたことにより、ダイバーシティ戦略がさらに明確になりました。私どもはグローバル企業ですので、あらゆる市場にどのように対応していくか、その地域の文化を理解していくかということがダイバーシティ推進上の最優先課題として求められるようになりました。「IBMの社員構成は市場を映す鏡でなければいけない」というガースナーの宣言の下、世界共通の課題としての女性の活用や、障害者やGLBT(同性愛者・両性愛者・性転換者)の問題、管理職クラスを女性やいろいろな人種、あるいは障害を持つ人などでどのように構成するかといったことにも取り組んできました。また、社員のワークライフをいかに会社としてサポートしていくかということを、IBMではワークライフ・インテグレーションと呼び、力を入れて取り組んでいます。

多様な人材が実力を発揮しやすいような制度や組織風土をいかにつくるかがインクルージョン=受容するにつながります。

IBMの人事方針としては、基本的な制度や仕組みはできるかぎりグローバルで共通化し、どこの国からでも全世界に異動などが行えるような仕組みを作っています。また、優秀な人材や多様な人材を引きつけて、さらにそうした人たちが会社の中で成長し、優秀な人がIBMで長く働けることを目指し、人材、成果と処遇、企業文化、リーダーシップの4つの分野を優先課題として取り組んでいます。ちなみにIBMでは、社員満足度調査を年に数回、全社員の15%をランダムサンプリングして行っています。これはIBMでは「社員が満足していない会社がお客様に満足を届けられるはずがない」と考えているためです。

続いてダイバーシティを推進するためのマネジメントシステムについてお話しします。マネジメントシステムにおいては、まず経営トップのコミットメントが非常に重要です。担当者も兼任ではなくて専任の者を置くこと、数値目標をある程度置き、かつ数字ありきではなくて、各地域・国や事業の分野の事情もよく考えながら実施していくことが大切です。人材の面では、今いる優秀な人材を引き上げるだけではなく、次世代の育成を継続していく、人材パイプラインの育成を重視しています。たとえば女性の管理職を今後20%にしたいのであれば、人材パイプラインの候補者は30%になるように工夫しています。

 

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