重度認知症の妻と介護した夫に起こった驚く事態 献身的だった夫、娘は「こうなる気がしていました」

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しかし、ある時期から奥さんは、ほとんど食事を口にされなくなってしまいました。そうするとご主人は「施設で出してるものがまずいからや!」と激怒しました。

実はこのご主人、身長が180センチくらいあり、顔がものすごくいかつく、女性職員たちが怖がるくらいの人だったんです。

この一件があってからは、男のぼくが対応することを増やしました。

いろいろ話をしているうちに、ご主人はぼくに心を開いてくれるようにもなりました。戦時中の話や奥さんとのなれそめなどを聞かせてもらいました。奥さんにはずいぶん迷惑をかけたので「やれるだけのことはやりたい」とも話していました。

その後、奥さんの体調が悪くなって入院することになり、しばらくはご主人だけが施設に残るかたちになりました。そのときご主人は「ほんまのこと言うと、しんどいときもあるねん」と、ぽつりと漏らしていました。

だからというわけではありませんが、退院された奥さんが施設に戻ってくると、食事介助など、それまでご主人が一人でやっていた奥さんの身の回りのお世話をやらせてもらえるようになりました。ぼくたちのことを信頼してくれるようになったからだと思います。

突然に訪れた夫の死。そして残された妻は…

奥さんのお世話を任されてからは、ぼくたち職員も、「あ~」とか「う~」とかの意味がなんとなくわかるようになってきました。長く介護をしていると、こうしたコミュニケーションが可能になることはそれなりにあります。介護士冥利といえるかもしれません。

そうした状況にご主人も安心されたのか、ずっと奥さんの部屋につきっきりでいるのではなく、ご自分の部屋にいる時間もつくるようになってきました。

もともと、ものすごい読書家で、奥さんの部屋にいるときも本を読んでいることが多く、本が山積みになっていたくらいでした。自分の部屋にいるときもおそらく本を読んでいる時間が長かったんだと思います。

そんなある日、ぼくが出勤すると「ご主人が亡くなった」と聞かされました。

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