インテル「TSMC追撃」150兆円目指す半導体市場 ゲルシンガーCEOが高らかに宣言した「新戦略」
ゲルシンガー氏はIntelに復帰すると、直ちに「IDM 2.0」と呼ばれる新戦略を打ち出した。具体的には垂直統合のIntelの半導体ビジネスを進化させ、IntelのPC向けやサーバー向けの半導体を製造するビジネスは継続しインテル内部の工場で製造を続けるが、同時にIntel自身がファウンダリとなり、Intelの競合他社を含む、顧客企業の製品の受託生産を開始するというものだ。
これによりIntel社内向けだけでなく他社の需要も取り込んで製造することが可能になり、Intelが製造施設の競争でファウンダリに敗れた要因である「規模で負けている」という状況を逆転することが可能になる。
「規模」を追求する道しかなかった
昨年9月にIntelが行ったイベントでゲルシンガー氏は「半導体製造には3つのやり方しかない。巨大か、ニッチか、それとも死か、だ」と述べ、規模の経済の中で規模を追求するか、ほかに競合がいないような少量だが利益率の高いニッチな製品を作り続けるか、それか破産かという3つの道しかないと指摘している。むろん巨大企業であるIntelにとってはニッチになることは選択できないし、もちろん破産という選択肢はありえない。従って規模を追求する道しかなかったというのが現実だが、それでもゲルシンガー氏以前のIntelのリーダーたちはその道を選択できなかった。
なぜかと言えば、規模の経済で規模を追求することは、半導体メーカーにとってはある種のギャンブルだからだ。というのも、半導体工場への投資は巨額で、しかもそれが稼働するまでに数年がかかることはざらだ。Intelのようにキャッシュフローが潤沢な企業であれば、それは不可能ではないが、投資時期には財務諸表への悪影響は避けられない。株主からそのことを指摘されて、平然としていられる胆力やカリスマ性が経営者には必要になる。
ゲルシンガー氏はその両方をもっている。ゲルシンガー氏はムーア氏やグローブ氏から直接薫陶を受けたIntelの生え抜きで、かつてはIntelのCTO(最高技術責任者)を務めたほど技術への造詣が深い。かつ、Intelを離れた後は、EMC(現在のDell Technologies)へ移籍し、当時EMCの傘下企業だったVMwareのCEOを2012年からIntel復帰(2021年)まで努めて、企業会計などを学び経営者としての素養を高めてIntelに戻ってきている。このため、技術だけでなく経営に関してもプロフェッショナルな経営者としてIntelに帰って来たゲルシンガー氏は、Intelの株主にとっても「パットがそう言うならやらせてみよう」という余地が非常に大きい。それが以前の経営者との大きな違いだと言える。
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