広末、沢尻、瀧…芸能人「次々復帰」を読み解くカギ 性加害と薬物・不倫への怒りに温度差が生まれる理由

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さらにここまであげてきた「インパクト」「他人の命や人権」の他にもう1つ、世間の関心度を上下する要素は、議論につながるかどうか。

「悪い」と言語道断の不倫や薬物より、真相がわかりづらく臆測を含めた議論につながりやすい性加害のほうが熱を帯びやすく、怒りが募りやすいところがあるものです。実際、性加害も『セクシー田中さん』の騒動も、「一番叩かれるべきは誰か」という観点で議論が白熱し、優先順位をつけて怒りをぶつける人々の声が目立っています。

もともと、生きている時間、さらに、起きている時間、仕事や勉強などに集中しなくてもいい時間が限られている人間は、無意識で向き合うことの優先順位をつけているもの。その中で怒りの感情を抱ける時間も限られているだけに、常に優先順位の高そうな相手を見つけた上でぶつけているのです。現在はテレビやネットなどが連日、性加害や『セクシー田中さん』の騒動を報じていることもあって、不倫や薬物の優先順位は低いのでしょう。

「怒り」の経年変化を実感する

さらに前提として忘れてはいけないのは、前述した芸能人の不倫や薬物騒動に対する怒りが収まった背景には、年月の経過と気分転換があること。

怒りの感情を抱いたら「6秒間待つ」「場所を移動する」「家族やペット、趣味や推しなど、好きなものを見て気を紛らわす」などの対処法で知られるアンガーマネジメントを踏まえても、時間と気分の重要性がわかるでしょう。人間における怒りの総量には限りがある上に、誰かへの怒りを持続させることは難しく、年月を経るほど好きにこそならないものの、無関心に近い状態になっていくものです。

不倫や薬物騒動が相次いだ数年前、なぜ私たちはあれほど怒っていたのか。そして現在、なぜその怒りは無自覚なままサーッと引いているのか。当時と現在の感情を冷静に比べられる人は自分の変化に気づけるでしょう。そして、その怒りがさほど必要性のない漠然としたものだったことにも気づけたら、これも今後につながるアンガーマネジメントの1つなのです。

他人に対する怒りの感情をコントロールできればそのぶん、自分の人生と向き合う瞬間が増え、充実した日々を送ることにつながっていくでしょう。

もしあなたが冒頭にあげた復帰報道を見て怒りの感情が再燃したのなら、それは自分の人生と向き合えていないということなのかもしれません。テレビなどの視聴者が多く、目にふれやすい無料メディアに復帰したわけではないことも含め、わざわざ怒りの感情を抱く必要性はないでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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